COLUMN

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Out of Tokyo

151:デザインと社会
小崎哲哉
Date: November 26, 2006

ロンドンに続き、在日オランダ王国大使館とアムステルダムのSICA (Service Centre for International Cultural Activities)のご厚意で、1週間ほどオランダに滞在した。SICAはその名の通り、文化的な国際交流を支援する組織。都心にある(もちろん運河沿いの)Felix Meritisという建物に拠点を置き、様々なイベントを催したり、出版物をつくったり、僕のケースのようにアーティストや研究者やジャーナリストを滞在させたりしている。Felix Meritisは1787年に建造されたという由緒ある建物で、当初は芸術と科学の振興を図る団体の本拠地だった。付設のコンサートホールは、ブラームスやシューマン夫妻、カミーユ・サン=サーンスらが演奏したことがあり、A.L.ファン・ヘントが「世界でも指折りの音」と評されるアムスのコンセルトヘボウを設計する際に参考にしたという抜群の音響を誇る。こんなところにも、ヨーロッパ文化の奥深さが感じられる。

 

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プラットフォーム21

訪問・面談したのはSICAのほかに、Fonds BKVB(視覚芸術、デザイン、建築のための財団)、BaasBank & Baggerman(舞台芸術制作団体)、Holland Festival(同)、Transartists(レジデンスプログラムなど、アーティストへの情報提供組織)、De Appel(現代美術館)、Van Abbe Museum(同)、Anouk van Dijk Dance Company(コンテンポラリーダンスカンパニー)、Dutch Jazz Connection(ジャズ企画制作・振興団体)、Jan van Eyck Academie(アート&デザイン関係者のための研究制作機関)、Institute of Network Cultures(ネット活動家、ヘアート・ロヴィンクらの研究所)Sieboldhuis(シーボルト博物館)、V2 _(メディアアート企画制作・研究団体)、Office for Metropolitan Architecture(建築家レム・コールハースの事務所)など。その他、何人かのアーティストに会い、またアムステルダムでは、ピアニスト、向井山朋子の公演を聴く機会に2回恵まれた。

 

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プラットフォーム21 (内部)

オランダは、文化芸術支援に関する制度が相当に整っている国のひとつである。各団体・個人を訪れるたびにその事実に感銘を受けたが、いちばん印象に残ったのはPremsela: Dutch Design Foundationの活動だった。世界に名だたるダッチ・デザインを国際的に振興させることを目的としたこの財団は、1997年に亡くなったインテリア&プロダクトデザイナー、ベノ・プレムセラの名を冠している。この10月にPlatform 21(プラットフォーム21)社とともに市内南西部のゾイダス地域に拠点を移し、展示や講演などで連携しながらさらなる振興に努めている。10月末から11月上旬に東京で開催されたイベント『100% Design Tokyo』で、オランダ・ブースを取りまとめたのがこのプレムセラ財団だ。

 

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討論会の模様 (プレムセラ財団のウェブサイトより)

そういう性質の団体だから活動は多岐にわたるが、印象に残ったというのは例えば、11/15にハーグの国際プレスセンターで開催した『政府デザイン顧問:ナンセンスか必要か』と題する討論会だ。財団のウェブサイトには、企画趣旨が以下のように記されている。「オランダ政府は大規模かつ一流のデザインプロジェクトを委託している。だが政府は、デザインの社会への貢献について持続的な展望を発展させるべき立場にある。我が国の政府は、この点において自らの責任について真剣であるだろうか」

 

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ヨアンナ・ファン・デル・ザンデン氏とポール・ファン・イペレン氏

この会にはデザイナーはもちろん、政治家や政策決定者が参加し、デザイン担当政府顧問を置くことの意義と可能性について論議が交わされたという。財団広報部長のポール・ファン・イペレン氏は「デザイン製品の販売促進と同様に、社会におけるデザイナーの責任について考えるのも我々の仕事です。政治家とデザイナーは、ともに公共デザインに関して責任があります」と語る。総選挙の1週間前に開かれたこの会合が、有権者に広く共有される論点のひとつになったかどうかは知らないが、デザインに携わる人々が、内輪だけではなく政策に関わる人々と話し合うという試みは注目に値する。

 

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個展準備中のアーティスト、クライン・デ・コーニング

プラットフォーム21は現在、円形の礼拝堂をリノベーションした建物を用いてファッション、デザイン関連の展示を行っている。2009年には近隣に新築する5000平米ある建物に移転し、プレムセラ財団とともに、新たに誕生するデザインエリアの中心的存在となる。地域には、様々なデザイン関連機関、自由大学、ギャラリーなどが集結する予定だ。アーティスティックディレクターのヨアンナ・ファン・デル・ザンデン氏は「デザイナーやファッションデザイナーら、クリエイティブな人々のための大きなミーティングプレースにしたい」と意欲満々だ。

 

この連載ですでに指摘したように(Out of Tokyo 139)、デザインを核にした地域再開発は世界的な潮流である。六本木の防衛庁跡地「東京ミッドタウン」にも、2007年3月30日に「21_21 DESIGN SIGHT」が開館する(「トゥエンティワン・トゥエンティワン デザインサイト」が正式な読み方らしいが、関係者は「トゥーワントゥーワン」と呼んでいる)。三宅一生、佐藤卓、深澤直人という日本を代表するデザイナーがディレクターを務め、安藤忠雄が建物を設計するという鳴り物入りの計画である。

 

「ミュージアムというよりもデザインのためのリサーチセンターであり、デザインについて考える場所であり、ものづくりの現場」(公式サイトより)という趣旨はプラットフォーム21に近いものがあるし、実際に両者は接触済みだという。正式オープン前ということもあってか、いまのところ関係者中心のイベントしか行っていないようだが、将来的にはぜひ、社会と広く、そして深く関わる活動に拡げていってほしい。言うまでもなく、デザインは社会と広く、そして深く関わる営為だからである。(2006.11.24)

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。