COLUMN

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Out of Tokyo

062:森美術館の行く末(2)
小崎哲哉
Date: May 08, 2003

承前

以下、四方幸子へのインタビュー。

 

四方さんのフィールドといえば、メディアアートだという印象があります。森美術館でもメディアアートを中心にキュレーションしていくんですか。

 

四方幸子 | REALTOKYO
撮影:ホンマタカシ

メディアアートが中心ですが、 現代美術その他もカバーしていく予定です。アート、デザイン、音楽、建築などの境界を越えて活動するアーティストが増える中、新しいプロジェクトを試みられればと思っています。 森美術館自体、美術館の空間だけにこだわらず、六本木ヒルズや周辺地域での展示やプロジェクトの展開を考えています。たとえばすでにヴァージンシネマズ六本木ヒルズとのコラボレーションが始まっているし、それ以外でもイベント、ライブなど、フレキシブルな形態での展開が可能だと思っています。

 

ヴァージンシネマズとのコラボレーションというのは?

 

夕刻から営業終了まで、ヴァージンシネマズ内の2カ所で映像プロジェクションを行ないます。5月末日までは、森美術館が昨年、プレオープニングイベントとしてTHINK ZONEで開催した「Young Video Artists Initiative」から2作品をセレクトして上映し、その後も継続して、秋以降には新作の上映やさまざまな企画を展開する予定です。

 

とりあえずは映像プロジェクトというわけですね。

 

ええ。でもそれ以外にも単発的なメディアアート・プロジェクトや、2~3年後にはプロパーなメディアアート展を開催できると思います。

 

欧米の一部には「メディアアートは死んだ」などという向きもあるけれど……。

 

四方が企画制作した「OPEN MIND live event」

2002.12.21
at ROPPONGI HILLS INFORMATION CENTER / THINK ZONE
主催:森美術館

ライブに先駆けてリリースされた「OPEN MIND」CDのコンテンツ(サウンド+ソフトウェア作品)は、こちらからダウンロード可能。

撮影:城一裕(S.W.Q.)
OPEN MIND live event | REALTOKYO
エキソニモ+掛川康典+ククナッケ
OPEN MIND live event | REALTOKYO
ライブ風景
OPEN MIND live event | REALTOKYO
portable[k]ommunityの強烈なサイン波を浴びる観客

「メディアアート」をいかに定義するかによりますが、それは挑発としての言い回しでしょうね。私自身はメディアアートを20世紀初頭以降、連綿続いている問題系だと捉えていて、「何を」使うかよりも「いかに」使うかを重視しています。だから「死んだ」という言い回しにはリアリティを感じていません。現代美術においても、現在のような情報環境では、アートがテクノロジーの影響を受けない方がむずかしい。状況に対峙しつつ制作していくことが、アーティストにとって必要なのではないかと思います。

 

森美術館では「アソシエイト・キュレーター」という肩書きですが、森以外の仕事も続けていくということですか。

 

はい。YCAM(山口情報芸術センター)の開館記念プロジェクトでラファエル・ロサノ=ヘメルの新作を制作します。それから、デジタル情報時代の知的所有権の未来をアートの視点から考えていくためのオンライン・プロジェクト"Kingdom of Piracy"をシューリー・チェン、アルミン・メドッシュと一緒に2001年以降行なっています。昨年のアルス・エレクトロニカ(リンツ)、今年のDEAFフェス(ロッテルダム)、FACTセンター(リバプール)と毎回新たな作品を加えて展開され、今後も続く予定。多摩美と造形大での授業も続けています。

 

森美術館への四方の関わりは、いい意味で双方にとってチャレンジングだと思う。森ビル社長・森稔はル・コルビュジエの盲目的な崇拝者として知られており、要するに熱烈なモダニストだ。美術館も当初は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)との提携がささやかれており、つまりは近代美術への傾斜・傾倒が(経営者レベルでは)色濃い。そこに一石を投じるのが、デヴィッド・エリオット&南條史生による四方の登用ということではないだろうか。

 

四方が在籍していたキヤノン・アートラボは、この欄で既に触れたようにメディアアートから完全に撤退している。またアートラボと競合しつつ日本におけるメディアアート紹介の一翼を担っていたICCは、予算を削減され今や風前の灯火だ。四方によれば「世界的には、メディアアートを学べる学科が大学で増えたり、美術館でも展覧会が増えたりしている」とのことだが、今後、日本でも同じ認識が共有できるかどうか。

 

四方の起用によるメディアアート・プロジェクトへの志向性からは、森美術館の意気込みと先見性が窺われる。だが、7800億円といわれる有利子負債を抱える森ビル株式会社が危機に陥ったとき、真っ先に「切られる」のは(NTTにとってのICCと同様)森美術館ではないか。そして森美術館が採算と動員を考慮に入れはじめたとき、同じように真っ先に切られるのは、近代美術よりも実績の少ないメディアアートではないか。この危惧が杞憂に終わることを念じつつ、現代美術を愛し、メディアアートを支持する者のひとりとして、森美術館の、そして四方幸子の成功を心から祈るものである。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。