COLUMN

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Out of Tokyo

061:森美術館の行く末(1)
小崎哲哉
Date: April 24, 2003

六本木ヒルズがいよいよ4月25日にオープンする。プレスプレビューで一足先に見てきたが、カルチャー関連施設もテナントの店舗も非常にリキが入っている。「空に伸びる都市」というコンセプトの是非はともかくも、話題になり、少なくともオープン当初に人々が殺到することは間違いないだろう。だがRTとしての興味はそこにはない。「アーテリジェント」を標榜する森アーツセンター、わけても半年後の10月に開館する森美術館が今後どのように東京のアートシーンを変えていくか(あるいはいかないか)がポイントだ。

 

館長デヴィッド・エリオット氏 | REALTOKYO
館長デヴィッド・エリオット氏

森美術館の意気込みは、まずそのスタッフ組みに表れている。館長に前ストックホルム近代美術館長のデヴィッド・エリオット、副館長に横浜トリエンナーレ2001アーティスティックディレクターの南條史生。これだけでも豪華な布陣と言えるのに、エリオットと南條は貪欲にキュレーターをリクルートして回った。東京オペラシティアートギャラリーのチーフキュレーター片岡真実、光州ビエンナーレのチーフコーディネーター金善姫、キヤノン・アートラボの四方幸子、そして世田谷美術館の学芸員だった東谷隆司……。「森へ森へと草木もなびく」といった観がある。

 

プレスリリースによれば、今後の展覧会は「古典美術から現代アートに至る約150点の作品を一堂に紹介する」『ハピネス:今を生きるために』に始まり、日本アートシーンの現状、ニューヨーク近代美術館コレクション、イリヤ・カバコフ、アジアのアート&カルチャー、フランスの近代写真、現代アフリカ美術……と多岐にわたる。あまりに総花的で、一貫した意図が見えにくいという批判は当然起こるだろうが、ここはあえて広範な対象を守備範囲内に定めた意欲を買いたい。当面は狭い対象に特化しないというのはひとつの見識だろう。多くのキュレーターが採用されたのはそのためだろうか。

 

村上隆デザインのキャラクター「ヨシコ」 | REALTOKYO
村上隆デザインのキャラクター「ヨシコ」。理事長の森佳子氏にちなむものか

片岡が登用されたのはよくわかる。ファインアートにこだわりつつも、建築やデザインなどその周辺領域を含みこむのに、『JAM』展などを手がけた彼女はうってつけの人材と言えるだろう。「アジア」という観点から金の仕事も想像ができるし、教育やワークショップなどを東谷が担当するのもうなずける。僕が個人的に知りたいのは四方幸子の役どころだ。アルスエレクトロニカフェスティバルの審査員を務めたり、やはりこの秋にオープンする山口情報芸術センターのこけら落としにラファエル・ロサノ=ヘンメルを呼んだりしていることからわかるように、四方の志向性は昔からいわゆるメディアアートに向いている。森美術館はメディアアートを積極的に展開するつもりがあるのだろうか。

 

昨年12月、森美術館プレオープニング企画のひとつとして、四方はオリジナルCD『OPEN MIND』と、同名のライブイベントの制作を行っている。ノイズの秋田昌美(メルツバウ)、ミニマルテクノの池田亮司らサウンド陣に加え、クワクボリョウタ、エキソニモらがソフトウェア作品を提供したが、これひとつを見ても、四方の(痛快な)逸脱ぶりは明らかだ。ヨーロッパでは一部に「メディアアートは死んだ」などと主張する向きもあるが、そのような状況下で四方は、そして森はどのような新機軸を打ち出してゆくのか。それについて四方に電話インタビューを行った。

 

【 この項、続く >> 062:森美術館の行く末(2)

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。