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Interview

020:カン・ウソクさん(『黒く濁る村』監督)&パク・ヘイルさん(『黒く濁る村』主演)
聞き手:松丸亜希子
Date: November 19, 2010
カン・ウソクさん(『黒く濁る村』監督)&パク・ヘイルさん(『黒く濁る村』主演) | REALTOKYO

韓国を席巻したウェブコミック『苔』に惚れ込み、韓国映画界の重鎮にしてヒットメーカー、カン・ウソク監督が自らメガホンを取って映画化。20年間音信不通だった父親の訃報を受け、謎を解明しようと山奥の村を訪ねる主人公ヘグクには、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』『グエムル—漢江の怪物—』などで日本でも人気のパク・ヘイルさんが起用された。340万人の大ヒットを記録し、利川春史大賞映画祭で最優秀作品賞、監督賞など7部門を受賞、そして“韓国のアカデミー賞”大鐘映画賞でも監督賞など4部門を受賞。東京国際映画祭でのインターナショナル・プレミア上映に伴って来日したふたりに、初タッグとなる本作について聞いた。

 

原作ファンからのバッシングを乗り越え

 

これまでオリジナルにこだわってきた監督が、コミックを映画化しようと思ったのはなぜでしょう。どんな苦労がありましたか。

 

カン:確かにこれまでとスタイルが違うと言われたのですが、個人的にスリラーが好きで、機会があればやってみたいと思っていたんです。原作の映像美やストーリーの構造が群を抜いてすばらしく、まずそこに惹かれました。私が演出したいと言ったら、映画業界の人も一般の人たちも驚いて。ネットに「なぜ似合わない服を着ようとするのか」という書き込みがあったり、原作ファンに「別の監督に替えてほしい」と言われたり(笑)。それによってなおさら自分がやりたいという欲が出ましたね。原作はヒットしましたが、コミックで可能なことが映画で不可能なこともあり、前後の繋がりが飛躍している部分をひとつひとつ埋めていくなど、映画用に手直しして。たいへんでしたが、やりがいのある作業でした。登場人物が多く、本編は161分で、上映時間を考えると40 分ほど削るために人物を減らす必要があったのですが、それはやりたくなかった。脇役にも役割を担ってほしいと、人物すべてに明らかな動機や人物像を与え、しっかり描こうと。脇役が登場すると観客は退屈するかもという懸念もありますし、全員を際立たせるのはたいへんなことでしたが、ひとりひとりをきちんと描いたことが成功に繋がったと思います。

 

黒く濁る村 | REALTOKYO
(c)2010 CJ Entertainment Inc. All Rights Reserved.

原作者からも原作ファンからも、ヘグク役にはパク・ヘイルさんを望む声が多かったそうですね。主演のオファーを受けて、パク・ヘイルさんはいかがでしたか。

 

パク:僕も原作のコミックを読んでいたのですが、監督自ら声をかけて下さって、1日くらいでばたばたと決まりました。決定からスタートまでも時間がなくて。僕が演じたヘグクは観客の視点だという気持ちで捉えていました。観客が僕に付いてきて村人と出会い、村人に関心を持って笑ってくれたりすれば、この映画はうまくいくのではないかと。原作があっても映画は監督の芸術作品ですから、監督自身が原作をどう捉えているか、監督の要求は何か、という点にじっくり耳を傾けました。共演者と息を合わせることも大切なので、ほかの俳優たちともいろいろ話し合い、現場でのチームワークを大事にしながら進めていきました。

 

微妙な感情表現が求められる役でしたね。

 

パク:閉鎖された村に単身で乗り込んでいくという、自分ひとりがよそ者のような立場で、村人ひとりひとりと対峙するシーンも多くて。小さな村の話ですが、ひとつの社会という捉え方もできます。それぞれ主人公になるような主演級の俳優さんたちと顔を突き合わせてぶつかるような演技もあり、劇中には常に死の雰囲気が漂っていたので、一瞬たりとも緊張を緩めることができませんでした。それが最初から最後まで続いたので、途中で皮膚病にかかって体調を崩してしまったことも。撮影自体、単純に楽しいという気持ちは1%もなかった。作品が持っている力、人が持っている力に押しつぶされそうな、そんな感じになってしまって、眠っているときさえ考えてしまい、はっと目が覚めたりして。監督には言ったことがなかったんですけど、肉体的にも精神的にも疲弊した作品で、まさにひとりで“苔むした黒く濁る村”にいたようでした。

 

『苔』という原題のイメージが映像に現れていました。人間に付いた苔もありそうです。

 

カン:原作者が付けたのですが、いいタイトルですよね。いつのまにか自然に出来上がって、しっかりへばりついて生命力がある。恐怖もそう。いつ迫ってくるかわかりませんし、目に見えないかもしれないけれど、どんどん追いつめてくるような。暗い部分だけでなく、明るい部分にも「白い恐怖」があり、苔という存在によって怖さを出せるのではないかと。時間とか空間に関係なく、知らず知らずのうちに押し寄せてくる恐怖というイメージで作品に臨みました。

 

ラストに登場したヨンジが思わせぶりでした。解決されない謎が最後まで残ったような気もしたのですが。

 

カン:あのシーンは、彼女が観客に「私はこうなんだけど、あなたはどう思う?」と問いかけているんです。どこまでヨンジが計画したのかという判断は観客にお任せします。祈祷院の殺人事件は、私としては決着を付けたつもりなので、謎が残ったとしたら、ぜひもう一度観てみて下さい。

 

黒く濁る村 | REALTOKYO
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キャラが炸裂する舞台出身の脇役陣

 

共演した先輩俳優たちから学んだことはありますか。

 

パク:駆け出しのころ、演劇のポスターを貼って回っていたことがあり、今回の共演者はそんなときに出会っていた舞台出身の方々の「詰め合わせギフトセット」みたい(笑)。皆さんと一緒に仕事ができたことを、カン・ウソク監督に感謝しています。すばらしい俳優たちが集まって作り上げた、人間の深みを描いた作品です。存在感や雰囲気や個性というか、それぞれのスタイルを持っている先輩たちに囲まれて、見ているだけでいろいろなことを感じる機会になりましたし、この経験はこの後ずっと自分の中に残る栄養分になってくれると思います。

 

ヘグクと対決する70代の老人に大変身したチョン・ジェヨンさんの怪演も光ってましたね。

 

カン:彼については、ネットユーザーから「最悪のキャスティングだ」と言われてしまって。チョン・ジェヨンがやったらたいへんなことになる、とんでもない、止めてほしいとか、脅迫めいたものもあったりして。だけど私は原作を読んですぐに彼しかいないと思ったんです。老け役はメイクでなんとかなりますし、年配の俳優に若作りさせるより若い俳優を老けさせたほうがいい。公開してみたら、いちばん賞賛されたのは彼でした。過去と現在の30年間を行ったり来たりする役で、あのメイクもとてもよかったですね。これまでいくつも主演男優賞を穫っていますが、今回もきっといけるのではないかな。パク・ヘイル&チョン・ジェヨンという2トップの組み合わせは、今後なかなか見られないと思いますよ。

 

パク・ヘイルさんは、チョン・ジェヨンさんと共演してみてどうでしたか。

 

パク:敵対する役がうまくいくだろうかと心配するくらい、普段は兄弟のように親しくさせてもらっています。実年齢より数十歳上の老人という難しい役で、周囲から危惧する声も聞こえましたし、さぞかしプレッシャーもあったでしょう。だけど僕自身は、チョン・ジェヨンさんの役者としてのキャリアも知ってましたし、彼ならやれるだろうと思っていました。もともと親しいからこそ演技に集中できて、楽しい時間を過ごせました。

 

黒く濁る村 | REALTOKYO
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監督として、俳優として

 

監督とパク・ヘイルさんは今回が初タッグでしたが、お互いに発見はありましたか。

 

カン:ヘグクのキャラクターは、執拗さをいかに演じるかということが重要だったのですが、これまで彼はそういった役をやったことがなかったし、実は少し心配していたんです。執拗さを強調し、燃えたぎる激しさを自分の中からどんどん出していく役だったので、大丈夫かなと。ですが、後でそれがまったくの杞憂だったことがわかりました。もっともっと激しいことを要求してもできたんじゃないかな。今後そういうキャラクターがあれば彼にやってほしいと思うし、ルックスからはわからない狂気を表せる俳優です。

 

パク:監督の前の作品は観ていましたが、今回が初仕事で、本作はカン監督の深みや広さが見てとれる作品になったのではないかなと。足りない部分を監督に補ってもらったおかげで、いい仕事ができました。

 

カン監督が、監督として大事にされていることは?

 

カン:新人のころから変わっていないのですが、一番大切なのは観客。どんな作品を撮っていても、観客に愛されるだろうか、観客が望むものだろうかと自分に問いかけています。今後もし興行が惨敗するようなことがあったら、私は映画監督を辞めます。マーケットを見る目を失ったということで、それでは監督をしている資格がないと思うから。常に勉強ですね。

 

パク・ヘイルさんは、俳優としてはいかがでしょう。

 

パク:世界と触れ合う手段が映画だと。映画を通していろいろなことを問い掛けることができますし、これからも観客と語り合える作品を作りたいなと思っています。カン監督と違うのは、観客との触れ合いに失敗しても、僕は出演し続けたいです。まだ若いし(笑)。

 

日本の観客の反応も楽しみですね。

 

カン:『公共の敵』や『シルミド SILMIDO』で日本の観客と出会いましたが、息がぴったり合うんですよね。笑うツボも同じだし、機会があれば日本の俳優と映画を撮ってみたいと思うくらい、日本のマーケットにも関心があります。韓国人と同じ反応を見せてくれるから、とてもわくわくしています。

 

パク:本作は人間が生きていく姿を描いた物語です。言葉や文化が違っても、おそらく日本にも通じるところがあると思います。楽しんでほしいですね。

 

カン・ウソクさん(『黒く濁る村』監督)&パク・ヘイルさん(『黒く濁る村』主演) | REALTOKYO

プロフィール

カン・ウソク

Kang Woo-suk/1960年生まれ。89年に『甘い新婦(原題)』で映画監督デビュー。チェ・ミンスとチェ・ジンシル主演の『ミスター・マンマ』(92年)や、アン・ソンギとパク・チュンフン主演の『トゥー・カップス』シリーズ(93年/96年)を大ヒットさせ、「韓国のスピルバーグ」と呼ばれる。1995年に製作投資・配給会社シネマ・サービスを設立し、数多くの映画を世に送り出すとともに新人監督を輩出、韓国映画勃興に大きく貢献する。監督としては、ソル・ギョング主演の『公共の敵』(02年)のヒットに続いて、『シルミド SILMIDO』(03年)で韓国映画初の1000万人動員を実現させた。以後、『公共の敵2 あらたなる戦い』(05年)、『韓半島(原題)』(06年)、『カン・チョルジュン 公共の敵1―1』(08年)、そして本作と、話題作にしてヒット作を連発し続けている。次回作は、チョン・ジェヨンとユソン主演の『グローブ(原題)』。

 

パク・ヘイル

Park Hae-il/1977年生まれ。パク・チャノク監督のデビュー作『嫉妬は我が力』(02年)で、主役の失恋を引きずる青年を演じて注目される。続いてポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(03年)の容疑者役として強烈な印象を刻み付ける。その後、同監督の『グエムル―漢江の怪物—』(06年)にも出演。そのほかの主な作品に、『菊花の香り〜世界で一番愛されたひと』(03年)、『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』(04年)、『極楽島殺人事件』(07年)、『モダンボーイ(原題)』(08年)、『10億』(09年)、『グッドモーニング・プレジデント』(09年)などがある。

インフォメーション

黒く濁る村

11月20日(土)から丸の内TOEI、シネマスクエアとうきゅう、シアターN渋谷ほかで全国ロードショー

公式サイト:http://kurokunigorumura.com/

寄稿家プロフィール

まつまる・あきこ/1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中にREALTOKYO創設に携わり、副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。