COLUMN

interview
interview

Interview

131:カルロス・ベルムトさん(『マジカル・ガール』監督・脚本)
聞き手:福嶋真砂代
Date: March 11, 2016
カルロス・ベルムトさん(『マジカル・ガール』監督・脚本) | REALTOKYO

長編デビュー作『マジカル・ガール』が公開となるスペインの新鋭監督、カルロス・ベルムトさんが来日し、インタビューした。アニメ『魔法少女ユキコ』に憧れる余命短い娘、その願いを叶えようとする父に降りかかる悲劇がブラックに描かれる。ミニマルでクールな映像、光と影の強いコントラストで際立つ闇の存在。長山洋子や美輪明宏の楽曲を使用するなど日本文化の大ファンでもあり、水木しげる、勅使河原宏、新藤兼人、寺山修司、浅川マキなど興味はなかなかの通好み。口数は少ないが、寡黙の中に秘めたパッションを感じさせる。日本に来ると新宿ゴールデン街に行くのが楽しみなのだと。

来日は何度目ですか。

 

今回で10回目です。トータルすると滞在は1年くらいになるのかと。東京を拠点に大阪、京都、奈良へ行ったりも。東京では門前仲町、新宿、梅ヶ丘あたりにいます。

 

渋いですね。「新宿ゴールデン街でまた飲みたい」とプレスインタビューで答えていましたね。

 

ゴールデン街はよく行きます。今回は到着してから少し体調悪かったのでまだ行ってないのですが、行きたいです。

 

カルロス・ベルムト『マジカル・ガール』 | REALTOKYO
Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

ミニマリズムと日本文化の影響

『マジカル・ガール』はなかなかショッキングでした。美しい映像ゆえに心がざわざわして、いてもたってもいられないような気持ちにさせるパラドクス的要素があり、光と闇のコントラスト、クールでミニマルな映像が印象的です。例えばバルバラの部屋は、洋服が1着もかかっていないワードローブなど、生活感が希薄です。もしかして監督ご自身の生活もすっきりしているのでしょうか。

 

そうなんです、私の部屋もほとんど何もないです。特別なポスターやインテリアもないし、あるのはベッド代わりに床に置いてるクッションと作業机のみです。モノが多くなるとどんどん息苦しくなってくるのです。それは映画を作るときも同じで、ひとつのシーンの中にあまりにもたくさんのモノや情報が入りすぎると、とても息苦しくなるのです。

 

カルロス・ベルムト『マジカル・ガール』 | REALTOKYO
Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

スペインは燦々と輝く太陽と、どちらかというと原色の派手なイメージを勝手に抱いていましたが、実際に訪れてみると、日本と相通ずる落ち着きがあって、街の中も原色というより抑えた色が多く、居心地のよさを感じました。

 

おっしゃる通り、海外でのスペインのイメージはカラフルで、道端にはバラが咲きほこり、なんていう感じですが、実際にはそんなことはなく、とても質素で、必要ないものは置かないというミニマリズムというのはありますね。

 

映画の中でも、日本のアイドルの歌やアニメキャラクターが使われたりという表面下にもっと精神的なものも感じました。静寂の中にどこか「わび・さび」に通じるような空気さえ感じました。そういう日本文化の精神性への意識はあったのでしょうか。

 

おそらく私が子供のころから日本のものに魅力を感じていたことが関係があるかもしれません。でもそれは自分がいちばん居心地がいいものとしてだったので、日本のものかどうかというのは、それほど意識がなかったかも。そういうふうに教育されたのではなく、自分がなぜかアニメが好きということなんです。「なぜ」かわからないからこそ、もっと知りたいと思う。それが好きで居心地がいいので、どこの国とか関係なく、それを見つけて「自分の居場所がここにある」と思ったのが日本文化だったのです。

 

カルロス・ベルムト『マジカル・ガール』 | REALTOKYO
Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

「脅迫」をモチーフにした理由

なぜ「脅迫」をモチーフに描こうと思ったのですか。

 

「脅迫」というのは、人間の力関係を表す方法として有効だと思ったのです。なぜかというと、誰かが脅されるということですでにそこにひとつの力関係が成り立ち、またそれを助けようとする人がいると、助けたことで、助けた人が助けられた人に対して支配的な力を発揮するという、要するに「脅迫」によって力関係の方向が変わっていくわけです。それがいちばん力関係を表しやすいと思って「脅迫」の連鎖ということを考えました。

 

謎だったのですが、バルバラが密かに行う怪しく危険なアルバイトのせいで、身体に傷が多く残っているのですが、精神科医の夫はその傷のことを知っていたのでしょうか。

 

彼が知っているかどうかは映画では説明せず、誰にもわからないのです。唯一わかることは、過去はどうあれ、現在は夫に支配されているということだけです。観客ひとりひとりの受け取り方は違うと思います。ある人は娼婦をやっている、ある人は自動車事故に遭ったのではないかとか、好きに解釈してもらっていいと思います。なぜかというと正解がないからです。しかしそれを頭で考えるのではなく、バルバラの状況として暗い過去を持っていることを感じていただければそれでOKだと思います。

 

カルロス・ベルムト『マジカル・ガール』 | REALTOKYO
Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

アリシア役のキャスティング

『魔法少女ユキコ』に憧れる娘アリシア役のルシア・ポジャンさんの透明感が魅力的でした。どうやって見つけましたか。

 

ルシアに関しては、ペドロ・アルモドバル監督と仕事をしてきたキャスティングディレクターと一緒に、70人くらいの少女をオーディションしました。「自分がタバコをゲットできるように大人を説得して」という課題に対して、ほかの女の子たちは「タバコをちょうだい」とおねだりをする感じだったのですが、彼女だけ、「タバコをくれなきゃ腕を折るぞ!」と言いました。外見ももちろんですが、知的な眼差しも印象的で、何より演技をとても楽しんでいたところも決め手でした。

 

最後に、お父さんとアリシアの間の「もし魔法が使えたら、何をしたい?」という可愛らしい会話が印象的でしたが、もしも監督が魔法を使えたら何がしたいですか。

 

空を飛びたいな。なぜなら自由を感じたいからです。

 

カルロス・ベルムト『マジカル・ガール』 | REALTOKYO
Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

(※このインタビューは2016年1月15日に行われました。)

 

プロフィール

Carlos Vermut/1980年3月6日生まれ。マドリードの第10美術学校でイラストレーションを学び、エル・ムンド紙でイラストレーターの第一歩を踏み出した。2006年にインジューヴ・コミック賞を受賞し、初の単独著作『El Banyàn rojo』(『赤いバニヤンの木』)を出版した。同書はバルセロナ国際コミック・コンベンションの4部門でノミネートされた。続いて短編集『Psicosoda』『Plutón BRB Nero』を出版し、『la venganza de Maripili』はアレックス・デ・ラ・イグレシアが作った同名のテレビシリーズの原作となった。08年には、TVEで放送されたテレビシリーズ『Felly Famm』を製作。翌年、初の短編映画『Maquetas』が第7回ノトド映画祭でグランプリを受賞し、すばらしい評価を受けた。同年、2作目の短編『Michirones』を発表。11年、『Felly Famm』で持つ権利の利益を資金に、初の長編映画『Diamond Flash』を自身の会社サイコソーダ・フィルムでインディペンデント映画として製作。映画は6月8日に映画視聴サイト「Filmin」でオンライン配給された。リリースされるや、スペインで話題を呼び、2週間にわたって、サイトで最も多く視聴された映画となった。『Diamond Flash』は批評家にも認められ、映画雑誌『Caiman』が選ぶ2012年のスペイン映画第1位を、パブロ・ベルヘル監督の『ブランカニエベス』と分け合った。同年、コメディアン・グループ、ヴェンガ・モンハス出演のブラックユーモアあふれる短編映画『Don Pepe Popi』の監督・脚本を務めた。また、大ファンだと公言している日本のマンガ『ドラゴンボール』にオマージュを捧げ、再解釈したコミック『Cosmic Dragon』を出版している。

インフォメーション

マジカル・ガール

3月12日(土)より、ヒューマントラスト有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

配給:ビターズ・エンド

公式サイト:http://bitters.co.jp/magicalgirl/

寄稿家プロフィール

ふくしま・まさよ/航空会社勤務の後、『ほぼ日刊イトイ新聞』の『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』コラム執筆。桑沢デザイン塾「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター。産業技術総合研究所IT科学者インタビューシリーズ『よこがお』など。