COLUMN

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253:中日新聞の大誤報
小崎哲哉
Date: November 21, 2013

11月18日に、中日新聞に「記者座談会に反響」という記事が掲載された。わずか2段。事実誤認を10ヶ所指摘したのに訂正はわずか2ヶ所。「記事の内容が不十分だった箇所を再掲します」と書いているだけで、日本語が間違っているのは笑えるが、ともあれほかの箇所は「十分」だと思っているわけだ。

 

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中日新聞 記者座談会(上)
中日新聞 2013年11月18日(月) 朝刊(11面芸能)

そもそも、僕は2週間以上前に5記者宛に書状を郵送し、Eメールも送った。もちろん住所もEメールアドレスも明記したが、これまで返信は一切ない(僕は京都に住んでいるので中日新聞はすぐには読めない。記事は中日から届いたのではなく、トリエンナーレのスタッフがPDFを送ってくれた)。つまり僕への回答ではなく、そして明らかな事実誤認には頬被りしている。だからここに宣言する。「無礼な新聞の大誤報!」と。

 

すぐに抗議メールを送ったが、11月2日付け前便への返信が一切ないのだから、今度も無視される可能性が高い。そこでトリエンナーレの事務局長と国際芸術祭推進室長に「トリエンナーレとして正式に抗議してほしい」とメールを送ったら、またもや断られた。愛知県最大の新聞と、県民の税金で営まれている県内最大の文化事業の責任者が、そろってこの「大誤報」に目を瞑ったのである。もしかして、グル?

 

まさかそんなことはないだろうと思うが、前回書いたとおり、事務局は(なぜか)まったく腰が引けている。だが我々にしてみれば、一方的に根拠のない非難を浴びせられたわけで、辻斬りか通り魔事件の被害者みたいなものだ。トリエンナーレの最高責任者にして県民の代表なら、こんな犯罪的な大誤報を放置するはずがないだろう。そこで、あいちトリエンナーレ実行委員会会長にして愛知県知事である大村秀章氏に下記の書状を送った。

 

記者Eによる「ためにする」論の運びは最悪だが、パフォーミングアーツ担当としては、記者Dによるキリアン氏を貶めるような発言もひどいと思う。日本を愛し、大震災に心を痛めていた氏であるからこそ、無理を押して「津波の犠牲者に捧げられる」(ビデオメッセージより)新作を創ってくれた。氏は大人だから笑って赦してくれるかもしれないが、委嘱した当事者としては非常に心苦しい。記者D、記者Eを含む5名の記者は、地方新聞だから何を言っても海外には伝わらないとでも思っているのだろうか。

 

個人的には、こんな低次元のトラブルに巻き込まれて大迷惑を被っている。時間も奪われるし、キリアン氏のケースのように、お世話になった方々が不快に思われることがとても悲しい。5記者は自らの小さなプライドを捨てて、さっさと非を認め、きちんと訂正・謝罪してほしい。互いに、もっとやるべきことがあるでしょう。早く本来の仕事に戻ろうよ。

 

 

あいちトリエンナーレ実行委員会会長への公開状

謹啓

 

 あいちトリエンナーレ2013パフォーミングアーツ統括プロデューサーの小崎哲哉と申します。トリエンナーレが成功裏に閉幕し、ほっとしています。会長もお疲れ様でした。

 

 さて、2013年10月28日および29日付けの中日新聞に掲載された「記者座談会」についてはお聞き及びかと思います。内容に著しい事実誤認があり、五十嵐太郎芸術監督がインターネット上で抗議・反論するとともに、私も11月2日に、記事末に記された5名の記者宛に書面と電子メールで質問状を送り、紙上での回答を要請しました。

 

 およそ2週間後の11月18日に、私への直接の連絡・返信は一切ないままに「記者座談会に反響」という無署名記事が掲載されました。ただし、私が指摘した10点の事実誤認に関しては「記事の内容が不十分だった箇所」を「再掲」したのみ。わずか2ヶ所です。

 

 ただちに電子メールで抗議し、逐一回答するよう再度要請しました。また、最初の質問状に5名の記者から回答がなかったので、トリエンナーレの横山譲事務局長および齋木博行国際芸術祭推進室長に「トリエンナーレとして正式に抗議してほしい」とお願いしました。ところが本日、齋木室長より私宛に以下の返信が来ました。

 

「先のメールでも申し上げましたが、事務局といたしましては、当初の記者座談会の記事掲載直後、中日新聞に対し申し入れを行い、その結果、五十嵐芸術監督に代わり拝戸キュレーターの寄稿が掲載されることとなりました。本件につきましては、トリエンナーレの学芸部門の最高責任者である五十嵐芸術監督ご自身が直接発信されており、事務局といたしましては、これ以上の関与は差し控えさせていただいております。」

 

 実は、私が11月2日に書いた質問状は、公開質問状の形でトリエンナーレ公式サイトに掲載してほしいと申し入れたところ、事務局に拒否され、致し方なく私が運営するカルチャーウェブマガジン『REALTOKYO』に掲載したという経緯があります。

 

 事務局に失望したのは今回だけではありません。私が委託された業務を遂行するにあたり、大きな障害となったことが多々あります。別の問題なのでここには詳述しませんが、私が最も憂慮しているのは、10月29日付けの「座談会(下)」中、下記の記者Dの発言です。この発言について、11月18日付けの記事では何も触れられていません。

 

「今回はオノ・ヨーコや世界的な振付家イリ・キリアンらトリエンナーレの「顔」となるアーティストが作品出品のみで、会場入りしないまま。キリアンは内容的にも評価は分かれた。(中略)現場にアーティスト本人が居合わせないのでは、盛り上がりに欠けるし、なんだかコケにされているようで釈然としない。」

 

 キリアン氏は「残念ながら私は飛行機に乗ることができず、名古屋での世界初演に立ち会うことができない」と語るビデオメッセージを寄せて下さり、我々は記者発表時にビデオを上映するとともに、メッセージを和訳して配布しました。健康上の理由が示唆されているわけですが、記者発表に出席したであろう記者は、背景事情を完全に隠蔽しています。

 

 一方、キリアン公演『EAST SHADOW』は、ほかならぬ中日新聞を含む多くのメディアで激賞され、我々が集計した限り、好評が不評をはるかに上回っています。根拠を示さぬまま「評価は分かれた」と記し、「コケにされる」という俗語まで用いたこの発言は、キリアン氏に対する甚だしい非礼であり、著しく配慮を欠くものだと思います。

 

 キリアン氏は日本語を解さないとはいえ、公演には向井山朋子氏のようにオランダ在住の日本人アーティストも参加しています。キリアン氏と関係が深く、そのために協賛して下さった日本ロレックス株式会社、そして後援して下さったオランダ王国大使館やアメリカ大使館の方々が、この記事を目にする(した)ことも大いにありうるでしょう。

 

 トリエンナーレ事務局の認識は上記・齋木室長のメールにあるとおりですが、中日新聞は五十嵐芸術監督にも返答していません。私の抗議状も再度無視される可能性が高く、このままではキリアン氏と氏の関係者が、中日新聞のみならず、我々現場スタッフ、トリエンナーレ全体、さらには愛知県民に対しても不快感・不信感を抱くことになりかねません。

 

 トリエンナーレ実行委員会として、中日新聞の5記者に正式に抗議し、キリアン氏への誹謗中傷とも受け取られかねない発言を含む事実誤認箇所の訂正(撤回)と「お詫び」記事の掲載を要求して下さいませんか。よろしくご検討下さいますようお願い申し上げます。

 

 なお、上述の「公開質問状」を『REALTOKYO』に掲載した際、その後の経緯を読者に報告する旨を約束しています。この書状も公開することを付言いたします。また、5記者に宛てた私の「質問状」も、コピーを添付いたしますのでご一読下さい。

 

謹白

 

2013年11月20日

あいちトリエンナーレ2013
パフォーミングアーツ統括プロデューサー
小崎哲哉

 

あいちトリエンナーレ実行委員会会長・愛知県知事
大村秀章様

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。