
株式会社ナカダイは「廃棄物の総合リサイクルセンター」を自任・自称している。同社には、1日あたり11トンの廃棄物が運び込まれる。500ミリリットルのペットボトルに換算して22,000本相当。これに加えて、分別済みの廃棄物50トンを購入しているという。未分別の廃棄物をリサイクルできるまでに分別・解体し、分別済みのものとともにリサイクルやリユースに回す。これが、廃棄物を「素材、マテリアル」と呼ぶナカダイの仕事だ。

運び込まれるのは、蛍光灯、金属くず、木材、ビニール、紙、OA機器、電子部品、梱包材、ガラス板、GPS のセンサー、金属バット、ボールペンのキャップ、ぬいぐるみ……。およそ考え得る大量生産什器なら、あらゆる物品があると言ってよい。使用済みのものもあるが、企業が決算期に在庫調整のために放出するまったくの新品もある。汚れてしまって原料に戻せないプラスチックや紙などは、燃料としてリサイクルする。ここ数年は設備系の廃棄物が激減したそうで、担当者は「ほとんど国内生産のための設備投資をしていないんだな」と産業空洞化を実感しているという。
同社前橋支店支店長の中台澄之さんは「ウチは備品を買ったことがないですね」と笑う。中台さんは、デザイン雑誌『AXIS』のウェブサイト『jiku』に「ナカダイの産業廃棄物日記」を連載している。上に記した情報、記述は、このコラムやナカダイのウェブサイトから引用したもので、つまり上述の「担当者」とは中台さんのことだ。まだコラムには書かれていないこととして、震災後は、津波で梱包の段ボールが濡れ、新品として扱えなくなった家電製品などが増えていると教えてくれた。中身はまったく問題がないものが多く、例えば市価2〜3万円の空気清浄機が、ナカダイでは8,000円くらいで買えるという。

ナカダイでは「デザイナーが使いたくなるようなレベルまで分別・解体する」(中台さん)ので、最近ではデザイナーや建築家が同社に素材を探しに来るそうだが、9月23日には、多摩美術大学とともに、多摩美上野毛キャンパスでユニークなイベントを開催した。10トンの産業廃棄物を素材として、デザイナー、建築家、アーティスト、それに学生が新たなプロダクトを作る。その名も『産廃サミット』である。

会場の床は、印刷ミスのため使用されずに廃棄された洗剤のパッケージカバーで覆われている。その上には、自動車用エアバッグの生地をカバーにした椅子、オフィスチェアの脚を組み合わせたインスタレーション風のベンチ、使用済みのテント生地を利用したバッグなどが並べられている。どんな用途のものだったのか、素人には想像もできない素材を使った家具(?)やアート作品(?)もある。中で目を惹いたのが、LANケーブルを用いたカラフルなオブジェ群。ランプシェードやスツールやごみ箱、はては人体を象った彫刻(マネキン?)まで。何かで強度を補う必要がありそうだが、商品化は十分可能だろう。

共催した多摩美情報デザイン学科の久保田晃弘教授は「ソーシャルマテリアルとデジタルファブリケーションのメソッドを組み合わせたら、相乗的に面白い効果が生まれると思ったんです」と語る。ここで言う「ソーシャルマテリアル」とは、ナカダイが「素材、マテリアル」と呼ぶ廃棄物のこと。「デジタルファブリケーション」は、3Dスキャナーや3Dプリンター、カッティングマシンやデジタルミシンなどのIT機器を用いたものづくりとその技術総体を指す。機器が大幅に安価になったこともあり、最近では、個人によるデジタルファブリケーションが、新たなコミュニティの創出を、さらに将来的には脱工業化時代をももたらすのではないかと期待されている。久保田さんはファブラボジャパン(RealCities 037参照)の創設メンバーのひとりでもあり、両者の組み合わせに大きな可能性を見出そうとしている。

「ナカダイさんには、1日に10トントラック4台分のマテリアルが運び込まれます。築地市場のようなものであり、つまりストックではなくフローなんですね。資源は社会の共有物であるという考えにおいても、ナカダイさん的アプローチとファブラボ的アプローチには共通するものがある。パーソナルマテリアルがソーシャルマテリアルとなり、パーソナルファブリケーションがソーシャルファブリケーションとなることを期待しています」
久保田さんによれば、これは必ずしもエコロジカルな思想から生まれた発想ではない。大量生産・消費の風潮に反対して行われる運動でもない。
「エコと言うより、大量生産と共生するサブループ(副次的な回路)なんです。生産過程では、例えばパンチした残りとか、使われない部分が必ず生まれる。それを活用しようということですから、アンチ大量生産ではありません」

『産廃サミット』は、10月末から11月頭にかけて、『モノ:ファクトリー ナカダイ西麻布工場』という名称で、内容を少しだけ変えて再現された。今後も、同様のイベントが開催されることは大いにありうる。ナカダイ的な動きとファブラボ的な動きが増え、連動し、拡大してゆけば、ものに囲まれ、ものに押しつぶされそうになっている僕たちの生活が、少しずつ変わっていくかもしれない。それは、ものを憎んで排除する、という方法によるものではない。ものを愛おしみつつ、新たな活用の場を発見する、という方法によるものだ。放射性廃棄物のことはさておき、僕たちは大量の廃棄物とともに生きてゆかなければならない。だとすれば、この方法はきわめて妥当なものであるだろうと思う。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。