COLUMN

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Out of Tokyo

227:震災と表現者たち II
小崎哲哉
Date: May 14, 2011

震災から1ヶ月と11日後、すなわち4/22に、エスパス・ルイ・ヴィトン東京で開催されたトークの司会を務めた。話者は東京都現代美術館チーフキュレーターの長谷川祐子、立命館大映像学部教授の北野圭介、建築家の塚本由晴(アトリエワン)、アーティストの八谷和彦の各氏(以下、敬称略)。司会の小崎を含め、人選したのは長谷川で、タイトルは「アートの現在を考える」という抽象的なものだった。だが、時期が時期であるし、この面々の話が抽象的なまま終わるわけはない。非常に面白かったので記しておきたい。

 

左端は小崎。その隣から、塚本、八谷、北野、長谷川の各氏。右上の画面には「ゲルニカ」が映っている(写真提供:エスパス・ルイ・ヴィトン東京) | REALTOKYO
左端は小崎。その隣から、塚本、八谷、北野、長谷川の各氏。右上の画面には「ゲルニカ」が映っている(写真提供:エスパス・ルイ・ヴィトン東京)

長谷川は現代アートの専門家として、ピカソの「ゲルニカ」を始め、キーファー、ハーケ、ボルタンスキー、ウォーホル、村上、ヤノベらの作品を見せた。いずれも事故や災害や人類の愚行に関わるものであり、記憶や鎮魂や再生をテーマとしている。北野は映像の専門家として、宮沢賢治ら東北文学へのオマージュも交えつつ、被災地を歩く人々の映像から感じ取った「凛々しさ、美しさ」について語った。両者ともに心を揺さぶる内容だったが、具体的な提案・提言という観点からは八谷と塚本の話が刺激的だった。

 

「視聴覚交換マシン」などのメディアアート作品で知られる八谷は、「アーティストとしては当面何もできないが、理系出身者として、また父親として何ができるか」と考えて行ったことを報告した。子供と非理系の妻の不安を鎮めるにはどうしたらよいか? その答としてtwitterに書いたのが「うんち・おならで例える原発解説」だ。3/12と3/14の水素爆発後、3/15にツイートしたもので、原発を「おなかを壊した男の子」、大気などから検出された微量の放射線を「おならのにおい」、炉心溶融などによって漏れ出る危険性のある放射性物質を「うんち」にたとえて説明(<http://togetter.com/li/111871>にまとめられている)。当日中に「おなかがいたくなった原発くん」としてアニメーション化され、YouTubeにアップされた。日本語版はあっと言う間に100万アクセスを超え、英・仏・中など7ヶ国語に翻訳された。

 

僕は3/17の朝に動画の存在を知り、「いま何が起こっているのかを説明するという点ではわかりやすいと思いました。ただし、排泄は生理的に必要不可欠な行為だから『うんち』という比喩はおかしいのでは? そもそも国は『うんちは出させない』と約束していました。地震列島に原発を設置するという根本的な愚行も、きちんと指摘すべきだと思います」と書き込んだ。いまでも同じ思いだが、アニメ制作に本人はまったく関わっていないことをこの日のトークで初めて知った。とはいえ、アニメ化を許諾した責任は本人も認めている。YouTubeは万人に開かれたメディアであり、八谷のtwitterのフォロワーは優に1万人を超える。3/15という極めて早い時点で「子供と妻のために」書いたことをどう評価すべきだろうか。

 

ちなみに八谷は、放射線による健康被害についても「父として考える安全対策」としてツイートしている。専門家であっても(専門家だからこそ?)確言できない被害予測と避難の指針を、「私見」と断りつつ綴った具体的で誠実な文章だ。例えば「小さなお子さんや妊娠中のお母さんがいるとして、3μSv/hが3日続いたら、僕はお父さんとして彼女たちの疎開を考えます」「一方仕事の関係でそこにいる必要がある大人の場合、僕自身は7μSv/hが1週間続くまでは我慢します。それ以上続いたら、自分も離脱を考えます」など(4/8。全ツイートは<http://togetter.com/li/121120>にまとめられている)。「僕は」「僕自身は」と明記しているところがポイントで、トークでもこれを強調していた。

 

姫路城(写真提供:東京工業大学塚本由晴研究室+アトリエワン) | REALTOKYO
姫路城(画像提供:東京工業大学塚本由晴研究室+アトリエワン/写真出典:『日本建築史基礎資料集成14 城郭1』中央公論美術出版)

一方、塚本由晴は、建築家として「復興プラン」をプレゼンした。その前の週に開催された『ペチャクチャナイト』で発表されたもので、一見、荒唐無稽のようでいて、実に説得力あるプランである。

 

塚本は、寺田寅彦の「津浪と人間」(1933年)を読み、「以前と同じ場所に住みたいという被災者の意思を尊重する」「人は津波の被害を忘れやすいから忘れないための方策を講じる」という2点を前提としたという。続いて「千年に一度の災害と言うからには、参考すべきは『世界遺産』ではないか」とひらめいた。まず頭に浮かんだのはアドリア海の港湾都市「ドゥブロヴニク」と15メートルの石垣がある「姫路城」。後者は地震にも津波にも耐えうる強度と高さを有し、水産施設などを石垣内に収納すれば海際に建設できる。階上には学校や役場や住宅を置き、天守閣は見晴台とする。

 

城の内部 | REALTOKYO
城の内部

城はひとつだけではなく複数を建造する。市町村別にしてもよいが、ともあれ城と城の間は「ポンテ・ヴェッキオ」のような橋で繋ぐ。橋の上には道路を敷設し、商店街も設ける。城の天守閣と併せて観光名所ともなるし、何十年後かに「何でこんなものを造ったのか」と考える度に、災害の記憶が甦るだろう。チベットはラサの「ポタラ宮」を模した山岳都市にするのもよいかもしれない。その場合、「山岳」を造るにはごみや瓦礫を利用する。廃炉された原発を封じ込めるには、やはり瓦礫とコンクリートを混ぜて「原発山」を造る。「ピラミッド」のような形にすれば、これも観光資源として活用できるかもしれない。

 

ポンテ・ヴェッキオ | REALTOKYO
ポンテ・ヴェッキオ(写真出典:http://www.flickr.com/photos/atomicgirlnyc/5147872628/)
ポタラ宮 | REALTOKYO
ポタラ宮(写真出典:http://gallery.hd.org/_c/places-and-sights/_more2006/_more10/Tibet-Lhasa-Potala-Palace-on-Marpo-Ri-Hill-1-CKB.jpg.html)
複数の「城」を連結するマスタープラン | REALTOKYO
複数の「城」を連結するマスタープラン
ご存じピラミッド | REALTOKYO
ご存じピラミッド(写真出典:http://www.flickr.com/photos/twiga_swala/2275565894/)
「原発山」 | REALTOKYO
「原発山」

考察の対象について可能な限り事実を集め、それを分析し、参考となる事例をなるべく原理的・本質的に探り出し、翻って当の対象に応用してみる。優れた表現者・実務者であれば必ず辿る論理的な道筋を、短い時間の内にきちんと辿って考え出した妙案だと思う。ぜひ実現してほしいし、他の建築家にも奮って別案を出してもらいたい。アーティストとは違って、建築家には「当面何かができる」のだから。

 

浜岡原発の一時停止は決まったが、被災した方々の、そして日本人(ほぼ)全員の「戦い」は長期にわたって続くことになる。それぞれのできることを、それぞれの立場で、それぞれのできる範囲で考え、実現に努めること。4人の話者から、そのシンプルな重要性を教えてもらったように思う。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。