


6月26日(土)、アートセンター「3331 Arts Chiyoda」がグランドオープンした。ディレクターの中村政人を始め、開館の下準備に苦労したスタッフは感無量だろう。かく言う僕自身もボードメンバーであり、いささかの感慨なしとしない。
3331の最大の特徴は、その混淆性にある。活動の柱は「展覧会の企画制作開催」「テナント(入居団体)へのスペース賃貸」「スクーリング」の3本。「Art Chiyoda」でなく「Arts Chiyoda」と複数形になっていることからわかるように、3本の柱は必ずしもファインアートに特化してはいない。実際、グランドオープン記念展 『3331 Presents TOKYO: Part1』は、アート、デザイン、テクノロジーがほどよくブレンドされている。「3331 を拠点に活動する発信者たち(入居団体)が選出した作品を一挙に公開」という、公式サイト(www.3331.jp)の口上通りの内容だ(7/25まで)。
そもそも入居団体のラインナップが混淆そのものだ。商業ギャラリーがあり、非営利ギャラリーがある。アーティストイニシアティブがあり、東京都が運営するレクチャールームがある。企画制作会社があり、広告代理店がある。デザイン事務所もあれば、印刷工房もある。美大のサテライトギャラリーや、地方自治体のサテライトスペース兼アンテナショップもある。植林など、林業を通じて地域再生を試みる会社も入っている。それに加え、クリエイターのためのシェアオフィスや、もちろんカフェレストランも備えている。

3331は、千代田区が所有する旧練成中学校の建物を改装したものだ。中村率いるアーティスト集団「コマンドN」と千代田区の関係は古く、1999年に開催されたアートイベント『秋葉原TV』に遡る。実験的なビデオアートを、世界にその名をとどろかせる電気街・秋葉原の電気店にあるTVモニターに流すという画期的な展覧会で、いわば合法的な店頭スクォッティングだった。普段はニュースやバラエティやスポーツなどを放映しているTVが、日常とは離れた非散文的な映像を流している様はアートファンには痛快な情景だったが、実現には粘り強い交渉が必要だったに違いない。
そのころから、中村には「地域に根差したアート活動」というビジョンが見えていたのだろう。その後も、区や、地元商店街や、町内会の人々との付き合いを深め、その結果として、その後の(神田のKandadaを拠点とする)コマンドNの活動や、秋葉原のすぐ近くにオープンした3331が生まれたのだと思う。だがそれは、言うまでもなく両刃の剣である。狭義の「現代アート」とは優れて知的なゲームであり、それは必ずしも、地域コミュニティが目指す目標と合致するとは限らないからだ。

別の場所にも書いたことだが、私見では3331には「5本の柱」がある。1:アートと街を、アートと人を、そして人と人とを接続してゆくこと。2:東アジアのハブとして機能すること。3:日本の現代アートとは何かを追究し、国内外に知らしめていくこと。4:アートに関わる技術を伝承・継承してゆくこと。5:領域を横断して、新しい芸術文化を生み出すこと。
この5本は、もちろん「地域に根差したアート活動」と齟齬を来さない。ただしそれは、「アート」の定義によるだろう。実はその点にこそ、今後の3331(と中村)が全力を挙げて取り組むべき主題がある。「3」に書いた「日本の現代アートとは何かを追究し」というのはそういう意味だ。3331の全活動がアートそのものである必要はないが、アートに資するものでなければならないという思いは、実力派アーティストである中村自身が最も強く抱いているものだろう。開館に漕ぎつけたとはいえ難路が続くことは間違いないが、あまたの困難を知恵と力で乗り越えてきた中村の豪腕に期待したい。入居団体の混淆性は、混淆都市とも呼ぶべき東京の実態を反映している。それは、新しい「アート」の定義に大いに参考になるに違いない。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。