
お気づきのことだろうが、今月に入ってから連載寄稿コラムの終了が相次いでいる。一昨年に続いて、プチリニューアルを予定しているからだ。ただし、今回の眼目は「戦線縮小」に置いている。連載寄稿コラムはすべて終了し、Picksは随時更新とする。英語版は完全になくならないまでも、英語原稿と英訳もかなり減らすことになる。数ヶ月後に新しい形に生まれ変わらせるつもりだが、当面はコンテンツが少ない状態が続くことになる。
直接的な理由、あるいは引き金は資金の欠乏だ。RTは恒常的な赤字が続いていて、不足分は僕の個人事務所が埋めていた。懐が痛むという個人的事情はさておき、不健全な状態であることは言うまでもない。健全化を図るべくあれこれ動いてみたけれど、どうにもうまく行かない。いつまでもこんな状態を続けるのは誰にとってもよくないので、ここらでひと区切りを付けようということになった。3月末日をもってシェアオフィスに置いた机ひとつを引き払い、編集部をスリムな態勢にする。読者の方々には直接関係ない話だが、原稿料とスタッフの俸給は廃止となる。もともと、どちらも薄謝ではあったけれど。
ある意味で、今回はよい機会だと思っている。創刊以来9年、準備助走期間を含めると10年間、RTは試行錯誤しながら走り続けてきた。当初はたったひとりだったが、いまでは同じ道を走る競走相手がいくつかある。カルチャーシーンの活性化に、メディアが果たす役割は小さくはないだろう。だから喜ぶべきことではあるが、同一カルチャーイベントの情報を各メディアが個別に収集し、個別にデータベース化するなど、無駄な点も少なくない。以前に、『Artscape』や『Tokyo Art Beat』と一緒に話し合った「データベースの共有」あるいは「ウェブからデータを収集してくるロボットの共同開発」など、次世代ウェブメディアの可能性を、じっくりと考えてみたい。
もうひとつ考えたいのは、リアルワールドでの活動に関してだ。ご記憶の方もいるかもしれないが、創刊から3年ほど、『REALTOKYO BAR』というイベントを不定期に開催していた。トークショーや、映像鑑賞、ダンスパフォーマンスなど、全部で9回行った。だが、『ART iT』を創刊した2003年秋以降、忙しさにかまけて一度も開いていない。
いちばんうれしかったのは、川口隆夫が振付・演出・出演し、藤本隆行がLEDを駆使した照明を担当した『Night Colours』公演のときのことだ(03年2月。六本木THINK ZONE)。僕は共同プロデューサーという肩書きだったがそれは名ばかりで、頭と手足を使い、汗をかいた本当のプロデューサーは、現在は日本パフォーマンス/アート研究所代表の小沢康夫さんだった。会場を紹介した関係で『RT BAR』の一環ということになり、もちろんRTで宣伝告知を行った。すると閉幕後に、ふたりの若い女性がわざわざお礼を言いに来てくれたのだ。「私たち、普段はアートしか観ないんですけど、初めてダンスを観たらとても楽しかった。これからいろんな機会に足を運ぼうと思います」。その言葉に偽りはなく、僕はその後、コンテンポラリーダンスの公演会場で、彼女たちに何度か会うことになる。カルチャー情報メディアを作っていて「よかった!」と思えるのは、こういう瞬間だ。
こうした機会をあらためて設けられないかと思っている。必ずしもイベントである必要はなく、違った形態もありうるだろう。重要なのは、上述のエピソードのように、ジャンルの混淆を図ること。そして、情報だけではなく現実世界の中でカルチャーに触れてもらうこと。文字通り「リアルな東京」を体験する機会の創出である。過去10年間に培った経験や人脈を、これからの10年のために如何に有効活用するか。それを考えることは同時に、これからの10年間にふさわしいメディアのありようを考えることになるような気がする。また、次代を担う表現者と、それに先立つ見巧者の発掘、育成にも取り組みたい。「Out of Tokyo 190」に書いた「オーディエンス・イン・レジデンス」プログラムも有力な方法のひとつだが、ほかにも様々なやり方があるだろう。メディアとしてできること、メディアだからこそできることを、大勢の仲間たちと一緒にとことん考え、そして実現したい。
これまで寄稿して下さった浅田さん、池田さん、菅付さん、前田さん、森さん、矢野さんには、心から「お疲れ様でした」「ありがとうございました」と言いたい。もちろん、以前に連載して下さった方々や、Picksを現在書いて下さっている方々にも。連載コラムを終了するのは、資金不足によって編集が介在できなくなるというのが理由だから、ブログのような形にすれば復活は可能であり、最適な方法を検討中だ。Picksや他の記事も(当面は現状のままだが)、おそらくは自由投稿に切り替える。いったん縮小した戦線を、あらためて拡大展開する日も遠くはない。転進転戦するRTに、今後もご注目いただきたい。
※イベント主催者の方々へ:REALTOKYO編集部は、3月末日をもってオフィスを引き払います。イベント情報の入力は、REALTOKYO MyPageに登録の上、「イベント情報入力」から行って下さい。プレスリリースは、これまで通りへ送信して下さい。よろしくお願いします。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。