COLUMN

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Out of Tokyo

201:アートマイレージの時代(?)
小崎哲哉
Date: December 25, 2008

今年もREALTOKYO「私の10大イベント」の季節がめぐってきて、どんなカルチャーイベントを観に行ったかを思い出すべく手帳を繰った。結果は明日(12/26)アップされる記事を見ていただきたいが、首都圏以外の場所にもけっこう足を運んでいる。取材などで訪れた海外の国際アート展を除いて、印象に残った国内のイベントを、展覧会やアート関連のものに限って書き連ねてみたい。

2/16
宮永愛子:景色のはじまり@京都市伏見区深草
宮永愛子:漕法@京都芸術センター
2/17
京都市立芸術大学卒業制作展@京都市立芸術大学構内+京都市美術館
写真の美術/美術の写真@大阪市立近代美術館準備室
再生される肌理@AD&A gallery(大阪)
3/1
池田亮司展@山口情報芸術センター(YCAM)
3/2
シェルター×サバイバル@広島市現代美術館
3/13
絵画の冒険者 暁斎 Kyosai−近代へ架ける橋−@京都国立博物館
4/26
十和田市現代美術館開館記念展『オノ・ヨーコ|入口』
5/3
ART RULES KYOTO 2008@京都国立近代美術館
5/5
ロン・ミュエック展@金沢21世紀美術館
5/6
与謝蕪村−翔(か)けめぐる創意(おもい)@MIHO MUSEUM(信楽)
5/10
宮永愛子・人長果月・塩保朋子:お釈迦様の掌@アートコートギャラリー(大阪)
7/9
小沢剛、セリーナ・オウ、パラモデル:アートでかけ橋@アサヒビール大山崎山荘美術館+大山崎町各所(京都)
7/21
ピピロッティ・リスト:ゆうゆう@丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
犬島アートプロジェクト@犬島精錬所跡(岡山)
8/23
大友良英 / ENSEMBLES@山口情報芸術センター
10/4
カール・ストーン:Han Bat@shin-bi(京都)
softpad・高木正勝:dual points@京都芸術センター
10/25
第7回ヒロシマ賞受賞記念 蔡國強展@広島市現代美術館
11/22
杉本博司:歴史の歴史@金沢21世紀美術館
12/17
高嶺格:大きな休息@せんだいメディアテーク
増岡巽「アルミ缶の家」(『シェルター×サバイバル』展) | REALTOKYO
増岡巽「アルミ缶の家」(『シェルター×サバイバル』展)

このコラムに書いたものもいくつかあるが、それ以外の展覧会/イベントも例外なく素晴らしいものばかりで、強く印象に残っている。京都が多いのは、僕が京都の美大で不定期的に教えているからだが、やはり、文化的に洗練されている大都市だからということもあるだろう。今年の地方イベントが「豊作」だったかどうかは、きちんと検証しないと何とも言えないけれど、個人的には非常に満足している。

 

小沢剛「ベジタブル・ウェポン-筑前煮/京都」(『アートでかけ橋』展) | REALTOKYO
小沢剛「ベジタブル・ウェポン-筑前煮/京都」(『アートでかけ橋』展)

一覧を作ってみてあらためて思ったのは、高木展と杉本展以外は、(将来的にはわからないが)どこにも巡回していない(しない)ものばかりだということだ。首都圏には来ない。他の地方にも回らない。現地に行くしかない。僕は職掌柄、幸運にも観ることができたが、せっかくの好企画を見逃して、残念に思っている人も多いことだろう。もちろん逆も言える。政治経済社会を問わず、あらゆるものが首都圏(というより、首都東京)に集中するこの国において、文化芸術イベントも例外ではない。正確な統計はもとより存在しないだろうが、圧倒的な数のイベントが首都圏でのみ企画され、実施され、消費され、地方に巡回するものはごくごく少数であるに違いない。

 

犬島精錬所 | REALTOKYO
犬島精錬所

それが良いか悪いかは一概には言えない。上の一覧に限っても、例えば宮永愛子の『景色のはじまり』は、作家の実家である焼き物の工房で、器に掛けた釉薬が膨張と収縮の過程でひび割れ、それに伴って生じる音を聞かせるというものだった。あるいは大山崎の『アートでかけ橋』は、古い洋館をリノベートした美術館や、神社など町内各所を舞台に滞在制作して作った作品がほとんどだった。犬島アートプロジェクトに至っては、90年近く使われないままだった精錬所を、建築家の三分一博志が再生させ、美術家の柳幸典がアート作品を作りおろして設置したもので、そもそも動かしようがない。いわゆるサイトスペシフィックなアートは、観客の側が動くしかない。

 

蔡國強「無人の自然:広島市現代美術館のためのプロジェクト」 | REALTOKYO
蔡國強「無人の自然:広島市現代美術館のためのプロジェクト」

また、大友良英の『ENSEMBLES』、特に高嶺格とのコラボレーションは、すでにこのコラムに書いたとおり、土地(山口)で集めた廃材、廃棄物を利用した作品である。高嶺がせんだいメディアテークで個展『大きな休息』を開く際に、解体後の廃材を山口から仙台に運ぶという案も出たそうだが、作家は「それでは意味がないし、廃材輸送で生じるエネルギー消費という観点からも許されない」と拒否したと聞く。高嶺の個展は、視覚優位の美術展示への疑問を視覚障害者のアテンドによって提示するという野心的な企画で、併せて場所の記憶も見事に再現・保持されていたが、これもやはり、他の場所へ巡回させるのは「意味がないし、許されない」のだろう。作り手の側からすると「必ずしも万人に観られなくてもよい。パフォーミングアーツのように、一過的、一期一会的なものであってかまわない」というような思いもあるかもしれない。

 

高嶺格「大きな停止」 | REALTOKYO
高嶺格「大きな停止」

とはいえ観客の側には「観たい」という欲求が強いだろう。では、どうしたらよいか? 上に挙げたサイトスペシフィックな企画以外については(あるいはそうであっても)、複数美術館の共同企画制作という手段はあり得る。せんだいメディアテークの学芸員に話を聞いたところ、かつて、YCAMやICC(NTTインターコミュニケーション・センター)とそういう話が持ち上がったことがあるが、何となくそのままになっている、ということだった。予算、人員、責任の分担など、詰めるべき問題はたくさんあるから、もちろん簡単な話ではないだろう。

 

食糧問題ではないが、アートにも地産地消問題やエネルギー問題が存在する。フードマイレージに倣って、今後は「アートマイレージ」という概念が導入されるかもしれない。当然「ビジターマイレージ」という概念も考え得るわけですが……。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。