COLUMN

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Out of Tokyo

161:アートウェブミーティング
小崎哲哉
Date: April 19, 2007
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会場は有楽町の東京国際フォーラム

アートフェア東京は成功裏に閉幕したようだ。関係者によれば、平日のみの開催にもかかわらず動員目標の30,000人は軽くクリアし、初日に展示作品が完売したギャラリーが何軒かあったとのこと。エグゼクティブディレクターの辛美沙も、疲労がにじむ中にもほっとした表情で「手応えがありました。来年もがんばらなくちゃ」と言っていた。とはいえ98の参加画廊中、海外ギャラリーはわずか5しかなかったことなど、欧米の主要フェアの水準に及ばない点は多々ある。古美術、日本画、洋画と現代美術が混在する「マーストリヒト型」(辛)のスタイルが「東京型」として認知されるか否かも含め、今後の課題は山積していると言うべきだろう。

 

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マル ギャラリーのブース。小竹顕也の作品
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SCAI the bathhouseのブース。名和晃平のグルーガンによるライブドローイング

一般公開2日目の4月11日には、会場内の会議室でトークイベント『ART WEB MEETING 01』が開かれた。首都圏および全国を対象領域とするアート(&カルチャー)サイト3つが、初めて公に顔を合わせる場である。パネリストは『artscape』ウェブマスターの春木祐美子、『Tokyo Art Beat』(以下、『TAB』)共同設立者のポール・バロン、藤高晃右、オリヴィエ・テロー、そして『REALTOKYO』(以下、『RT』)から僕の計5名。定員70名の部屋は立見客も出るほどの大入り満員だった。大阪在住で、アートコレクターとしても知られるお笑い芸人、おかけんたのテンポのよい司会に助けられ、1時間半はあっという間に過ぎ去った。楽しかったけれど、とはいえ司会を除いて話者が5人。ポールとオリヴィエの発言には通訳も入る。話し足りなかったことがたくさんあり、「02」を早くやりたいね、と終了後に参加者全員が言った。

 

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『ART iT』も出版ブースを出しました

前半では各サイトが簡単なプレゼンテーション、すなわちサイトの成立事情、内容、特徴紹介などを行った。デイヴィッド・エリオット前森美術館館長(現イスタンブール・モダン館長)への2分弱のビデオインタビューをはさみ、後半ではサイト創設から現在までのネット状況の変化、和英バイリンガルであることの重要性(必要性)、今後の可能性などについて、それぞれの所見を述べた上で、短いながら討議をした。前史を含め創刊以来12年と最も古い『artscape』は、美術館、展覧会情報のアーカイブ作成を重んじている。『RT』の創刊は7年前で、アート以外のカルチャー情報と複数筆者によるコラムを含んでいる。『TAB』は2年ほど前の創刊と最も新しく、投稿欄を除いて完全バイリンガルで多数のアート&デザイン情報を発信している。似ているようでいてそれぞれに特徴があり、図らずも、いや意識的に、棲み分けというか役割分担がなされている。

 

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デイヴィッド・エリオット氏はビデオ出演

それぞれが自負を込めて語ったのが、「編集が入っている」ということだった。多くの個人ブログと異なり、寄稿家が書いた原稿を編集者がチェックし、内容・文体ともに一定の水準を保っているということである。例えば「だらだらと書く」ことを許さず、一定の字数制限を設ける。事実かどうかなるべく裏を取る。誤字脱字をできるだけ減らす。個人だと(書き手の能力以前に)システムとして行いがたい「編集・校正」を、どのサイトもきちんと行っているのだ。「中身が面白ければそれでいいでしょ」という向きもいるけれど、内容の信頼性を高めるという意味で、地道だが必要かつ重要な工程だ。

 

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小崎と『artscape』の春木祐美子氏
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『Tokyo Art Beat』の面々と、おかけんた氏

将来に向けての提案という点では、「展覧会情報など、データベースの共有を」という声が誰からともなく上がった。主催者であれ運営スタッフであれ、イベント情報は人力で入力せざるを得ない。『RT』は映画など特殊な興行形態のイベント情報も扱うので多少事情は異なるが、共有できるに越したことはない。そのためには入力フォーマットの統一が急務であり、同時に主催者へ知らしめて自力入力を促す必要もある。いちばんいいのは、3者に限らず誰もが使えるデータベースサイトをひとつ用意して、主催者(この場合は美術館、ギャラリー、オルタナティブスペースなど)がいったん入力すれば、どのメディアも情報をそこから落とせるような仕組みをつくることだ。映画業界には『イメージネット』のような「エンターテイメント・ファッション・スポーツなど様々な分野のPR情報、宣伝素材を、報道・媒体関係者に提供」するサービスがすでにあるが、それにちょっと近い。入力すると同時に、PDFなどでプレスリリースもつくれる仕組みになっていれば、主催者のモチベーションも上がるのではないだろうか。

 

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4/23には『Kansai Art Beat』が創刊されるそうだ

究極の目標はさらに先にある。『RT』創刊時に、チーフプログラマーの島田卓也とアートディレクターの小阪淳が、将来の可能性について興奮気味に議論を交わしていたが、ウェブ上にあるカルチャー情報を、必要性に応じて拾ってくるロボットを走らせることだ。現在のRSSのイメージに近いが、あれから7年も経ったのだから、そろそろできてもいいだろう。これについても、規格の統一など越えなければならない壁はいくつもあるし、何よりも開発に金と時間がかかる。だが、つくり手も、受け手も、媒体もハッピーになれる仕組みなのだから、壁を越えて実現させたい。関係各位のご協力を期待したい。(2007.4.19)

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。