COLUMN

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Out of Tokyo

138:Art Taipei
小崎哲哉
Date: May 11, 2006
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photo by Lin, Wen Shan
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『Art Taipei』オープニングレセプション
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初日には大勢の客が押し寄せた
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昔懐かしい(?)こんな光景も
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パトリシア・ピッチニーニ(左から2人目)

アートフェア『台北國際藝術博覧會 Art Taipei 2006』(5/5-9)に招かれ、レクチャーをしてきた。与えられたお題は「東京の現代美術市場」。『アートフェア東京』『Art@Agnes』『GEISAI』『テイクアートコレクション』『タグボート』などについて取材に基づいた報告を行ったのだが、台湾のアート関係者は、とりわけ後2者のオンライン販売に関心を抱いていた。この分野の伸長は世界的な傾向である。ネット上の画像や情報だけを見て、つまりは実物に触れないで購入するのだから、勢い作品は版画、写真、映像などエディションものが中心となる。ITの進歩は、メディアアートなど作品を支える技術やその技術による内容だけでなく、商品としてのアートの形式(メディア)にも影響を与えている。

 

『Art Taipei』には問題点がいくつもあった。今年の会場は華山文化園區という、もとはビール工場だった建物で、面積や天井高は申し分ない。だが主会場に空調設備はなく、一部では雨漏りさえしていた。亜熱帯気候のもとでアートフェアを開催する際に、暑さと湿気対策を施すことは当然である。会場内部の施工がずさんで、掃除も不十分だったために埃も多く、特に海外から参加している出展画廊やアーティストは、不満の声を上げていた。

 

参加ギャラリーの傾向やレベルが不揃いなのも気になった。地元・台湾を中心に、出展者は計58。モダンアートや伝統的な絵画なども少なからずあり、ワインなど各地方の特産品を並べたブースまであった。アートフェアはフェスティバルではなく売買の場であるから、バラエティに富んだ品揃えのほうがよいという意見もあるだろう。だがフェアの「目玉」である招待作家は、昨年の小沢剛に続き、今年はパトリシア・ピッチニーニである。世界最高レベルの現代美術作家を呼んで、展示どころか講演までやらせているのだから、ちぐはぐな感じがするのは否めない。コンテンポラリーに特化せよとまでは言わないが、せっかくの機会を利用して一般観客の啓蒙に努めるべきだったのではないか。

 

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大日本帝国統治時代に建てられた台北MOCA
(もとは小学校)

せっかくの機会といえば、台北市現代美術館(台北MOCA)で開催中の『台湾當代芸術展』は、規模は小さいが切れ味の鋭いグループ展だった。袁廣鳴(ユェン・グァンミン)、王俊傑(ワン・ジュンジェ)ら、30代後半から40代の実力派アーティスト7組の作品が、点数は少ないものの精選展示されている。ドローイングと組み合わせたインスタレーション、ペインティング、ビデオインスタレーション、メディアアート、さらにはデザインユニットによる風変わりなプロダクツもあって、写真作品がなかったのは残念だが、メディアのバランスもよい。台湾の現代美術の水準を短時間で一望・概観できる、部外者にはありがたい企画である。台北に行く機会のある人はぜひ観て下さい(6/4まで)。

 

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IT Park

また、アーティストランスペースの伊通公園(IT Park)では、呉瑪俐(ウー・マーリー)の個展が開催されていた。オブジェ、ドローイング、インスタレーションで構成され、会期中にも制作を続けるという、肩の力が抜けた展示である。IT Parkはカフェバーも併設する居心地のよい空間だから、ハコと内容がうまく合っているように思えた。すぐ近くにはVT Art Salonなる、やはりアーティストランのバーがある。最近オープンしたばかりで、上述の袁廣鳴の写真作品なども飾られている。ミニマリスティックな内装はいささかお洒落すぎるように思えたけれど、デザイナーズホテルがいまごろになって人気の台北では、こういう店こそがカルチャーシーンを象徴しているのかもしれない。アート、音楽、映像、デザイン、建築など、相異なるジャンルが出会うこういう場所は東京にももっとほしい。

 

ともあれ『Art Taipei』の会場外には、コンテンポラリーアートと台北の都市生活が融合した、「台北の現在」を体感できる空間がいくつもあった。「融合した」が大げさというなら「触れあった」という表現でもいい。こうした展示や店とフェアが連動すれば、アートに対する関心も深まるし、国内外の観客動員にも役立つのではないだろうか。アクセスマップや展示スケジュールを記したフリーガイドを配布したり、広報活動を共同で行ったりすればよい。いわゆる「文化観光」は各国で関心を集めている。こういった協働はもちろん、台北だけではなく世界中のどんな大都市にとっても有効だと思う。(2006.5.11)

 

※『Art Taipei』の名誉のために付記しておけば、スタッフの熱意と身を粉にした働きぶりは称賛に値する。彼ら彼女らの心配りと笑顔によって、会場の雰囲気は実に心地よいものになっていた。南国らしいホスピタリティにふさわしく、フェアの水準が上がってゆくことを期待したい。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。