COLUMN

outoftokyo
outoftokyo

Out of Tokyo

129:『クーリエ・ジャポン』創刊 II
小崎哲哉
Date: December 22, 2005
photo

承前

『クーリエ・ジャポン』は3号目が刊行された。イラク報道、鳥インフルエンザの特集や、「アジアが注視する安倍晋三」の合間に、「F・フクヤマ「私はイラク戦争に反対だった」」「カリスマ・ゲーマーはシンガポール世界大会をめざす」「世界屈指の映画大国“ノリウッド”へようこそ」といったシブイ記事が並んでいる。ちなみに“ノリウッド”とはナイジェリアの映画産業のこと。古賀義章編集長へのインタビューを続けよう。

 

発行部数はどれくらいですか。公称でけっこうです。

 

20万部です。おかげさまで創刊号は、都内では完売しました。(国内)全体では7〜8割ですね。

 

目標部数は?

 

15〜20万で安定するといいなと思っています。

 

それは無理じゃありませんか(笑)。

 

いや、『アンテルナショナル』は、(日本と比べて)人口が半分のフランスで実売部数が20万部以上ですからね。それからすれば可能ではないかと。

 

となると、定期購読者を増やすことが重要ですね。『アンテルナショナル』は創刊時から2/3が定期購読者で、いまでもそうだと聞いています。

 

そう思います。ただ、創刊の時点で800〜900人の方が定期購読して下さっています。これがこの勢いで伸びていくといいと思う。

 

『アンテルナショナル』の鈴木秀亘アジア部長にもメールで質問してみた。同紙唯一の日本人スタッフで、前回書いたとおり創刊メンバーのひとり。『ジャポン』の創刊にも、当初からアドバイザー的に関わっている。

 

講談社側からどんな注文がありましたか。

 

特別な注文はありませんでした。日本の読者層とフランスの読者層は当然違いますから、まったく同じ雑誌をつくってもうまく行かないだろうという認識で、東京もパリも最初から意見一致していました。

 

創刊号と2号を見た範囲で、日本語版をどのように評価しますか。

 

よくできていると思います。創刊を焦らず、時間をかけて準備されてきましたし、パリのものとは違ったクーリエになっています。フォーマットはもちろん、ページのデザインももちろん違いますし、写真の使い方も違います。僕らにとっても、新鮮な点が幾つもありました。もちろん、まだ細部に問題があると思いますが、翻訳もので一冊の雑誌をつくるというのは、一見簡単にみえても、実際はとても難しいのです。とりわけ日本語にしていくのには、なみなみならない努力が必要です。

 

個人的あるいは会社的コメントがあれば聞かせて下さい。

 

さる11月8日に15才を祝ったクーリエ・アンテルナショナルですが、創刊当時は読者数がわずか数万という、まったく無名な週刊誌でした。それが15年間も生き延び、実売部数毎週20万という雑誌に発展できたのは、コンセプトはもちろん、その質を保ち続け、少しずつですが、確実にファンを増やしてこられたからです。発売当時約3分の2だった定期購読者の割合は、今日も変わっていません。こういったファンを獲得できるか、クーリエ・ジャポンの成功はそこにかかっていると思われます。

 

古賀、鈴木の両氏によれば、『アンテルナショナル』と『ジャポン』の提携は、コンセプトとネットワークの提供に限定されている。すなわち、『ジャポン』が『アンテルナショナル』の記事を何割以上買って、本家と同じようにつくるというのではなく、編集の主体はあくまでも日本側にある。実際、両紙を見比べてみると、記事はほとんど共通していない。『ジャポン』は独自に記事を選択し、しかも『アンテルナショナル』を通してではなく、各国の提携メディアと直接版権交渉して記事を買う。既に書いたとおり、善し悪しはともかく、独自記事も何本かある。

 

反体制メディアも含めて、あらゆる国内メディアはナショナリズムに奉仕する。国内で制作され、「国語」を用いている限り、それは当然の帰結であって例外はない。ただし、ニュースソースが国外に求められるのであれば、「奉仕」の濃度はある程度は薄まるだろう。その際に重要なのは、ソースのバラエティの絶対量だ。

 

どの土地の土壌が汚染されているのかわからない現代にあって、牛乳などに含まれている可能性のある汚染物質を(なるべく)摂らないようにする唯一の方法は、可能な限り多くの産地のものを取替え引替え飲むことだそうだ。要するにリスク分散ということだが、同じ方法はメディアからの情報摂取にも適用できる。ソースが少なければ比較検討など望むべくもないけれど、多数の報道を相互比較すれば、プロパガンダ的な報道に洗脳されることなく、(いくぶんか)ましな結論を引き出せる可能性があるというわけだ。

 

その意味で『クーリエ・ジャポン』は、アジア諸国には珍しい、貴重なニュースソースのハブだと言えるだろう。100カ国以上、1,000誌紙以上という量は悪くない。とはいえ、資本の論理はすべてに優先して編集方針に影響しうるし、この国の「民度」がどれほどのものかも相当に心許ない。『アンテルナショナル』の鈴木氏に「それほど楽観はできないのでは?」と書き送ったところ、「ご指摘のとおり、それほど簡単に成功するとは僕も考えてはいません。ただ、古賀さんという人は、クーリエにかなり惚れ込んで、講談社の上部の方々を説得しましたから、あの熱意があり、そして編集チームさえしっかりしていればファンが着くのでは、と思っています」という返事が戻ってきた。僭越な物言いになるけれど、編集部の心意気を応援しつつ、雑誌の方向性を見守ってゆきたい。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。