COLUMN

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Out of Tokyo

128:『クーリエ・ジャポン』創刊 I
小崎哲哉
Date: December 08, 2005
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15年前にパリで創刊された『Courrier International(クーリエ・アンテルナショナル)』には、3年前のこの欄で触れたことがある(「Out of Tokyo」053)。100カ国以上、1,000を超えるローカルメディア(新聞及び雑誌)からニュースを買い、フランス語に翻訳して刊行するユニークな週刊紙だ。この4月にスタートしたポルトガル語版に続き、11月17日に日本語版が創刊された。これには虚をつかれた。

 

3年前にも書いたことだが、「クーリエ日本版」の話は以前にもあった。今回、『アンテルナショナル』の創刊メンバーで、アジア部長の鈴木秀亘氏に確認したところ、僕が書いた「数年前」ではなく、「アンテルナショナルが創刊されて比較的間もない頃」だったそうだ。だが「残念ながら、当時の日本はバブルがはじけた直後で、財政的な理由から企画は中断」したという。理由が「財政的」なものだけだったのかどうか、僕は疑問に思っている。国際的なニュースを恒常的に求める読者層が、この国にどれだけ存在するのか。その疑いをいまも抱いているからこそ、『クーリエ・ジャポン』の創刊に驚かされたのだ。


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創刊号は480円。表紙は錦絵に見立てた、二本差しの小泉純一郎のイラストである。「世界が見たKOIZUMI」というコピーが躍り、目次を見ると「NYタイムズ・インタビュー 国境を越えた村上春樹の世界」「松井秀喜 メジャーリーガー3年目の総括」「スペインも注目する「プリンセス愛子」の将来」などのタイトルが並んでいる。「世界で最も自国民論(日本人論)を好む」といわれる日本人におもねるように、日本関連記事がフィーチャーされているわけだが、講談社のような大出版社が刊行する以上、これは当然の配慮と言うべきだろう。こうしなきゃ売れないし、広告も入らない。まあ、仕方がない。


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と思っていたが、2週間後に発売された第2号を見て、もう一度驚いた。そろいもそろってコメントを差し控えたくなるようなご面相のご婦人が12人、顔写真を並べている。題して「世界は女が決める! ライスvsヒラリー+10人の女性リーダーたち」というメイン特集だ。次に大きく扱われている記事は「ビンラディンを追え!」。宮崎駿のインタビューと『ル・モンド』紙による「皇室」が掲載されているとはいえ、創刊号に比べ、明らかに「日本」がトーンダウンしていて、けっこう「国際ジャーナリズム誌」っぽいのである。僕のような者にとって興味深いカルチャー関連記事も、宮崎インタビュー以外に、建築家レンゾ・ピアノのパリ暴動に関するコメント、トリノに建てられた通称「磯崎パレス」の評判、サルマン・ラシュディとポール・オースターの対談、となかなかチョイスがいい。

 

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これは面白いと思って、古賀義章編集長に電話で話を聞いた。1964年生まれ。『週刊現代』『フライデー』というスキャンダル報道を好む雑誌を経て、2001年に社内海外留学制度により渡仏、滞在。その後、「社内の新雑誌企画に応募、社内選考をパスして、編集長経験もなく、いきなり創刊誌の編集長に」と、自社のブログサイトに連載中の「編集長日記」に記している。火山災害、オウム真理教事件に取材した2冊の写真集を刊行した写真家でもある。創刊号には「アメリカだけが、「世界」でしょうか?」というちょっと挑発的なタイトルの編集長メッセージに、「ワインから国際政治まで」というフレーズを記している。

 

いかにも日本的な週刊誌ジャーナリズムから、いささか毛色の異なる方向へのご転身ですが、社内の理解と反応はいかがですか。

 

『デイズ・ジャパン』『ヴューズ』、他社でも『マルコポーロ』など、国際ニュース誌は失敗続きですからね。会社としても大きな挑戦です。

 

広告クライアントの反応はどうでしょう。創刊号には、ルイ・ヴィトンやIBM、ブルガリなど外資系の企業のほか、ナショナルクライアントも軒並み広告出稿しています。

 

フランス系など、外資家企業からは好評ですね。また、広告ではありませんが、東武ホテルや全日空ホテルなどのラウンジ、3大メガバンクやJAL国際線には、雑誌を置いていただいています。いまは無料提供ですが、JALさんには、4月からお買い上げいただく方向で話を進めています。各社、応援して下さっているという印象です。

 

でも第2号では、広告は全92ページの内11ページ、タイアップ記事を含めても計13ページしかありませんね。

 

そうですね(笑)。でも、広告はあまり頼りにしていないんですよ。過大な期待はしていない。1号あたり、12本から15本入れば回していける、という計算で動いています。

 

ホントですか(笑)? だけど創刊号の松井のインタビューのように、独自記事を増やすとなるとお金がかかるでしょう。

 

確かにそうですね。独自の視点は示していきたいので、コスト面で折り合えば独自記事は増やしてゆきたいと思います。

 

想定する読者像を教えて下さい。

 

首都圏中心。30代から40代後半で、男女比は半々。読者アンケートを見ると、実際にその年代が5割で、2割が50代、3割が20代です。

【この項、続く >> 『クーリエ・ジャポン』創刊 II

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。