COLUMN

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Out of Tokyo

123:横浜トリエンナーレ開幕
小崎哲哉
Date: September 29, 2005
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横浜トリエンナーレの内覧会に行ってきた(9/27)。川俣正ディレクターが自らガイドしてくれるプレスツアーに参加したが、1時間ではゆっくり観られるわけもない。その後、目玉とされる「ビュラン・サーカス・エトカン」に1時間、レセプションパーティまで間があったので4B会場に戻ってそこに30分、さらにパーティ後、会場で内輪のBBQパーティがあったのでビールを飲むのもそこそこに4Aから4Cの作品見物に1時間、それぞれ時間を割いた。以下は、初日前日のわさわさした雰囲気の中で、たった3時間半ほど会場で過ごした印象記に過ぎないことをお断りしておく。


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川俣正ディレクター。後ろの作品は高松次郎「工事現場の塀の影(再現)」。

まずはちゃんと開幕したこと、いや、開幕させたことについて、川俣ディレクター以下スタッフの奮闘に敬意を表する。みんな忘れちゃってるかもしれないけれど、磯崎新の辞任騒ぎがあって、川俣がディレクターに就任したのは2004年の12月中旬である。それから、たったの9ヶ月で国際展を成立させたのだ。その間に行うべき仕事は、作家の出展交渉、会場構成の決定、宣伝広報、設営、関係者とのもろもろの調整……と、想像するだに恐ろしくなるほどの量であり、その結果として今日がある。信じられない。


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すでに報じられているように、短い準備期間でイベントを成立させるために川俣が採用した方針が「ワークインプログレスとしてのアートフェスティバル」だった。アーティストとしての川俣自身の方向性にもぴったり合うものだが、厳しい状況を逆手に取った優れた戦略であったと思う。それを証立てるかのように、主会場となったふたつの倉庫はお世辞にもきれいとは言えない。各作家のブースは合板が塗装もされず露わになっていて、「工事中」という単語が頭に浮かぶ。森鴎外の小説から連想するなら「普請中」だろうが、いずれにせよ、これはまさに「ワークインプログレス」だ。時間をかけて丁寧に仕上げられた完成品にはありえない、猥雑なエネルギーが感じられる。

 

もちろんそれは、逆に言えば完成度が低いということだ。実際、見方を変えれば、「大人がつくった学園祭」と言えなくもない。でもまあ、それは大目に見るべきだろう。着任の際の記者会見で、川俣は「こういう(準備期間が信じがたいほど短いという)状況で引き受けたんだから、どうなっても文句は言われないでしょう」と、冗談交じりに保険を掛けていた。その保険に、主催者だけではなく我々も乗ったのだから(言うまでもないが、身銭を切ってトリエンナーレを見物する観客は、そんな背後事情にかかわらず、入場料に見合うだけの楽しみが得られたかどうかを、それぞれ検証・表明・批判する権利がある。ただその際、責められるべきは ((責めるとすれば)) 川俣と現場のスタッフではなく、開催が1年遅れたことも含め、混乱を引き起こしたもっと「上」の主催者だ、ということである)。


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チェン・ゼン「Purification Room」

一方、準備期間の短さは、結果的にいくつか問題を生んだと思う。ひとつは、この欄や『ART iT』で何度か触れている、アートが隣接領域を含み込もうとする欲望に関わるものだ。話題性と集客のために、前述のサーカスを含め、何組かのパフォーミングアーティストが選ばれている。舞台芸術をアートフェスティバルに組み込むことの是非以前に、バランスの取れた適切な選出だったと言えるかどうか。またもうひとつは、これも何度か触れているお粗末な広報体制のことだ。これについては多くを語るまい。開幕で終わりにせず、「広報インプログレス」を望む、とだけ書いておく。


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インゴ・ギュンター。作品内に富士山が見える。

「学園祭」なんてイヤだ! という人のために、個々の作品に関する個人的な意見も少しだけ書いておこう。完成度の高い作品(あるスタッフによれば「大人な作品」)は「4号上屋」の4Bと4C会場に集中している。作家名を挙げれば、チェン・ゼン、インゴ・ギュンター、松井智恵、ロビン・ロード、高嶺格、米田知子+芦屋市立美術博物館+ボランティアグループ「とまと」等々。高嶺作品は内覧会の時点では未完成だったが、以前に『Living Together is Easy』展(2004年 水戸芸術館現代美術ギャラリー)に出展したインスタレーションの大幅な改訂版(のようなもの?)と聞く。だから、間違いないだろう。

 

会期中には様々なイベントが計画されている。面白そうなものはRTでも随時紹介してゆく。とにかく「ワークインプログレス」なのだから、トリエンナーレの評価は12月18日の終了日まで、大げさに言うと毎日変わってゆくかもしれない。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。