
話題の『GUNDAM —来たるべき未来のために—』展の内覧を観に、大阪はサントリーミュージアム [天保山] に行ってきた(7/14。展覧会は8/31まで)。発売中の『ART iT』第8号で特集しているので展覧会のコンセプトは一応呑み込んでいたし、作品の写真もひととおり観てはいた。だが、やはり実物は違う。展示の迫力に圧倒された。
展覧会の主題となったアニメ『機動戦士ガンダム』の初回放映は1979年から80年にかけて。単純な勧善懲悪の物語とはまったく異なる世界観は、いわゆる「ガンダム世代」の精神形成に大きく影響した。64年から75年の間に生まれ、まさにその世代に属する15組23人の作家による作品は、どれもよく考え抜かれている。善と悪ばかりでなく、戦争と平和、愛と憎しみ、生と死など、これまでは二律背反的なものとして受け止められていた様々な価値が、必ずしも対立するものではなく、ときに併存し、混合し、影響し合うという事実を、「ガンダム」によって教えられたのがこの世代だということの証左だろう。この番組によって初めて「性」を意識した、という者も少なくない。

(c) Sotsu Agency・ Sunrise
(c) 2005 Nishio Yasuyuki
中でも西尾康之と小谷元彦の作品が群を抜いている。西尾の『crash セイラ・マス』は、280×400×600cmという巨大な彫像。四つんばいとなって前方をひしと見据え、握った拳を振り上げる様は異様な力強さとエロティシズムに満ちている。これまでと同様、手指で粘土を押して鋳型をつくり、そこに石膏を流し込んだパーツを組み合わせるという手法だろうが、とにかくデカく、腹部にはコックピットがつくってあるという凝りようだ。本人によれば「口から胃カメラを入れれば内臓も見えます」とのこと。『ART iT』に収録した対談で、西尾が所属するギャラリー「山本現代」の代表である山本ゆうこは「西尾康之の理想の女性は、50メートル級の巨大娘でして……」と述べているが、この作品は間違いなく、作家の欲望をこれまでで最もよく具現化した現時点での代表作と言える。

(c) Sotsu Agency・ Sunrise
(c) 2005 Odani Motohiko
小谷作品は『胸いっぱいの愛を』と題する写真シリーズ。撮影のためにタクラマカン砂漠へ二度も足を運んだという力作だ。いきなりネタバラシしてしまうと、『ART iT』に掲載した写真は「部分」であり、それもトリプティック(三連画)の一画面の部分である。ほかの画面に何が写っているかはぜひ実物を観てほしいが、あらゆるディテールに、生と死とエロティシズムが、濃厚に、露骨に、かつ微妙に漂っている。神はいざ知らず、生と死は(そして性も)部分に宿るのだ。技術的にもきわめてレベルの高い、快作だと思う。

レセプションのスピーチで、『機動戦士ガンダム』の生みの親、富野由悠季は「それぞれなりに思いも意気もあるだろうが、(作品は観客に)享受されなければ意味はない。その点でまだまだと思えるものもあった」と控えめな苦言を呈しつつも、「全体として合格点」と太鼓判を押した。「戦争」「進化」というコンセプトを案出し、富野に会った後に「生命」というテーマを加えたというキュレーターの東谷隆司が、言葉のいちいちに神妙にうなずいていたのが印象的だった。ちなみに、自身ガンダム世代である東谷は、全員が男性である作家陣に作品完成までの性交自粛を促したという(笑)。「童貞だったあのころを思い出すんだ!」ということらしいが、その甲斐あってか見事な展覧会になったと思う。
サントリーミュージアムは必ずしも使いやすい美術館ではない。実際、作品の並びには何カ所か、「この場所にこれはないだろう」と思えるものもあった。だが、熱意は細部の瑕瑾をカバーしてあまりある。『ART iT』の編集長メッセージにも書いたことだが、『THE ドラえもん展』や『キティ・エックス』展と根本的に異なるのはその点だ。熱意が空回りすることもあるかもしれないが、キャラクターものの企画展ではまず、そのキャラに作家がどれだけ入れ込んでいるかが重要だ。好きでもないのに『ドラえもん展』や『キティ・エックス』に参加した作家は、『ガンダム展』を観て深く反省するように。

『ART iT』の特集も、ガンダム世代の編集スタッフとデザインスタッフが燃えに燃えて、あるいは萌えに萌えて制作した。細部に生と死が現れているかと問われれば『ガンダム展』の諸作品に敵うわけはないけれど、愛があふれていることだけは保証しよう。展覧会も雑誌も(そしてもちろん人生も)、愛と熱意がなければ面白くない。
p.s. サントリーミュージアムの近くにある築港赤レンガ倉庫では、アーティスト伊東篤宏による「創作音具によるサウンドインスタレーションとパフォーマンス」が開催されている(7/31まで)。巨大な会場内で、光と闇を聴き、音を視るような強烈な空間体験だ。『ガンダム展』とも相通じるところのあるこの展示を見逃してはならない。
伊東篤宏:Na・Ri・Ka・Na・De・Mi・Ru・Ya・Mi・Yo・Mi
http://www.arts-center.gr.jp/
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。