COLUMN

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Out of Tokyo

114:ドークボット
小崎哲哉
Date: May 26, 2005

RTをつくっていて困るのは、イベントのジャンル分けだ。明瞭に「映画」、厳密に「ダンス」というふうに区別が付くものはいいけれど、最近は「パフォーマンスもトークもある」展覧会とか、「無声映画にライブ音楽を付ける」試みとか、「映像もダンスもDJもライブドローイングもあり、料理ユニットが食事も出す」イベントなんていうのまでがあって、どのジャンルに分類するか長時間悩むことが多い。本来はどうでもいいことなんだけど、分類しないことにはイベントカードの作成(データベースへの入力)ができない。サイトの構造上、仕方がない。まあ、最後には「えいや!」って決めちゃうんですが。

 

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司会を務めたエキソニモ(赤岩やえ+千房けん輔)
右は山川冬樹

5月12日(木)にSuper Deluxeで行われた『ドークボット TΩKYΩ』もそんなイベントのひとつだった。最初に案内をくれたのはアーティストユニット「エキソニモ」の千房けん輔で、メールに曰く「ドークボット(www.dorkbot.org)というのは、『電気を使って変な事する人達(people doing strange things with electricity)』というテーマで行われるミーティング/イベントで、このシンプルなテーマだけで、世界20都市以上で動いているコミュニティです」。こう言われて、どんなものかを想像できる人は少ないだろう。

 

実は僕は、2月にベルリンに行ったとき、transmedialeの関連イベントとして開かれた『ドークボット』を見逃している。ほかのイベントに時間を取られて、会場に行ったときには終わってしまっていたのだ。残っていたのは、イベントが終わった直後のやや高ぶった空気だけ。Super Deluxeで思い出したのは、そのときの空気感だった。

 

イベント開始早々から同じ雰囲気だったのだから、それは高揚感とかそういうものではない。そうではなく、イベントの参加者が出している体臭のようなもの。「電気を使って変な事する人達」が醸し出す匂いである。ベルリンでいえば、ミッテやクロイツベルクの古くて巨大なビルの地下、東京でいえば、秋葉原か中央線沿線の雑居ビルに、そういう匂いが昔から染みついているような気がする。


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バイオプレゼンス

具体的に当日、何が行われたかを書き出してみよう。まずは、「バイオプレゼンス」(福原志保+ゲオルク・トレメル)のプレゼンテーション。特殊な方法によってコード化したヒトのDNAを木の遺伝子内部に保存し、「生きている記念碑」をつくるプロセスが説明される。技術的な部分は素人には理解不能だし、多くの人々に関心がありそうな倫理問題も詳述されない。とはいえ画期的な試みであることはよくわかるし、その後で見せた、そら豆(だったっけ?)のDNAをシークェンサーなしで、つまりは手作業で抽出する実演(実験?)はかなり受けた。試験管で供される「DNAカクテル」は「キモい」と不評だった(笑)。

 

次いで、「盗聴電機大学×音質向上委員会」のプレゼン。実は雑誌『ラジオライフ』に寄稿するライターふたりのユニットである。『ラジオライフ』は、「NHK受信料なんて払わなくてOK!」「パソコンでエロ衛星番組録画」「ヤフオク詐欺の手口を全部公開」「軍用エアーバンドを受信するためには?」「警察無線&裏ワザ25年史」などの啓蒙的(?)な記事を満載する老舗雑誌で、このふたりのプレゼンも、「動くダッチワイフ」「10万円分の乾電池で何が動くか?」といった、教育的にして野心的なもの。笑かしていただきました。ついでに、良導体であるところの人体をスイッチとする、やや危険なDJプレイもあり。


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音がバンド名

続いて、もっと笑えたのが「音がバンド名」の、う〜ん何といったらよいのか、クイズ? うん、まあ一応クイズ。二人組のラッパーで、下手だし、何言ってんだかわかんないし、途中でとぎれるし……という三重苦状態にもかかわらず、その圧倒的な情けなさゆえに会場は爆笑の連続。ファミコンの基盤から音だけを取り出してイントロ当てさせる、というクイズだったが、それだけで笑わせるんだから大したものといえば大したものだ。

 

次に、メディアアート界の大御所、藤幡正樹の思考実験レクチャー(?)。パソコンゲームの「ソリテア」をもとに、ウロボロス的、あるいはメビウスの輪的につながってゆく数字の面白さをアピールしようというものらしかったが、説明のためにゲームを寸止めしようとするごとに無情にも必ずクリアしてしまう(哀)。残念でしたね。>藤幡さん


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伊東篤宏

最後に、伊東篤宏のオプトロン・ソロ演奏。相変わらずかっこよかった。オプトロンについてはこのコラムの「108:殺す・な博」を参照して下さい。

 

というわけで、ユルイといえばとことんユルイこのイベント。やっぱりジャンル分けが限りなく不可能に近い。藤幡さんが「この時代のアングラ」と言い得て妙な命名をしていたけど、「アングラ」ってジャンルじゃないしなー。でも、まあいいや。ユル楽しい体験、今後も味わいたいので定例化を希望します。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。