COLUMN

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Out of Tokyo

109:ARCO
小崎哲哉
Date: March 17, 2005

『殺すな・博』という面白いイベントがあったので、1回あいだが空いてしまったが、2月上旬にtransmedialeを観たあと、スペインに行っていた。マドリードで開催されたアートフェア、ARCOを観るのが主な目的だった(2/10-14)。

 

ミヅマアートギャラリーの面々。後列左から、若林良さん、オーナーの三潴末雄さん、作家の倉重迅、天明屋尚、青山悟

ARCOはスペインを代表する、現代美術のアートフェアである。ヨーロッパではスイスのアート・バーゼル、英国のフリーズ・アートフェア、フランスのFIACなどが有名だが、ARCOは入場者数が際立っている。たとえばアート・バーゼルが1週間で5万人を動員するのに対し、今年のARCOは5日間で約18万人を集めたという。入場料は前後半で違うが、安い後半の2日間でも24ユーロ(学生は17ユーロ)と決して安くはない。それでもこれだけの来場者があるのだから大したものである。


pkmギャラリーのオーナー、パク・キョンミさんと、作家のベ・ジュンソン

国王夫妻と今年のゲスト国、メキシコの大統領を迎えた開会式直前に、バスク独立を求めるETAの爆弾テロという歓迎されざる客もあった。負傷者だけで死者が出なかったのは不幸中の幸いだったが、僕も会場のすぐ手前で車を下ろされ、歩いての会場入りを余儀なくされた。前の週に活動メンバーが逮捕されたことに対する報復テロだという話で、要するに反体制派に狙われるような国家的なフェスティバルだということだ。


東京画廊の田畑幸人さん

参加したのは、日本のミヅマアートギャラリーと東京画廊、韓国のpkmギャラリー、香港の10チャンスリーレーンギャラリーなどを含め、およそ300。当然ながらヨーロッパとラテンアメリカ諸国が多い。実際に売買するのが目的だから、各ギャラリーのブースは熱気があふれ、和やかな中にも気持ちのよい緊張感が漂っている。コレクション癖のない僕のような者でさえ、何かを買いたいという気にさせられる。若手から大家まで、世界各国の作家の作品が並んでいるから、財布の事情に合わせて、気軽に買うことができるのだ。


今年度ヴェネツィア・ビエンナーレ韓国館コミッショナーのキム・ソンジョンさん

感心したのは、売り買い以外にも心配りがなされている点だ。各国のキュレーターや評論家が参加するシンポジウムは、5日間で50以上開かれた。アジアからはデヴィッド・エリオット(森美術館館長)、片岡真実(同シニアキュレーター)ら6人が『今日の美術館およびアートスペースのためのキュレーティング』というパネルに招かれ、パネルには参加しなかったが、今年のヴェネツィアで韓国館コミッショナーを務めるキム・ソンジョン(アートソンジェ・ミュージアム主任学芸員)も会場に顔を見せた。


メディアアーティストのラファエル・ロサノ=ヘメル

また、今年は商業ギャラリーのブース以外に、『Black Box』というビデオアート(および一部インタラクティブアート)を見せるコーナーが設けられていた。作品を選んだのはゲルフリート・シュトッカー(アルスエレクトロニカ館長)ら、メディアアートの専門家である。映像作品やメディアアート作品がなかなか売れないということを考えると、商業目的のアートフェアにこうしたコーナーがあるということ自体が画期的だ。もちろん財政的な余裕があってのことだろうが、現在進行形のアートシーンへの目配りが、過不足なく行き届いているという印象を受けた。


国立ソフィア王妃アートセンターでは、建築家ジャン・ヌーヴェルによる増築工事が進められている。
手前の立体はロイ・リキテンシュタイン作

問題がないわけではないだろう。だが確実に言えるのは、バーゼルやロンドンやパリと同じく、ヨーロッパの大都市で開かれるアートフェアには、長い歴史という強力な味方が背後に付いているということだ。街に出れば、プラドが、ティッセン・ボルネミサ美術館が、国立ソフィア王妃アートセンターがある。そこにはベラスケスやゴヤばかりでなく、イタリアやフランドルやドイツの古典絵画から『ゲルニカ』を含む現代美術まで、アジアに比べれば「無数の」と形容してもおかしくないほどの、質量ともに圧倒的なコレクションがある。美術家や美術ファンを含むヨーロッパの人々は、この歴史と伝統に寄り添うにせよ反発するにせよ、膨大な美術品とともに、同じ空間の中に生きている。

 

その事実を思うと、いまさらながら非ヨーロッパ圏の劣勢に溜息が洩れる。「スーパーフラット」などという、付け刃の理論では太刀打ちできない歴史的な重みが彼の地にはあるのだ。時間的な堆積に対するには空間的な連合・連帯しかありえないのでは、という思いが浮かぶ。それにしては我々アジア人はいまだに連合も連帯もしていない。今年開かれる『アートフェア東京』や『横浜トリエンナーレ』で、この夢想は実現するだろうか。う〜ん……と語尾を飲み込んでしまう自分が哀しい。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。