COLUMN

outoftokyo
outoftokyo

Out of Tokyo

103:日本文化の海外広報
小崎哲哉
Date: December 23, 2004
国際交流基金ウェブサイトのトホホなスプラッシュムービーより。いまどきこのセンスはないでしょう

前回書いた横浜トリエンナーレだが、各メディア既報の通り磯崎新は辞任し、アーティストの川俣正が後任ディレクターとなった。前途多難。だが禍転じて福とすべく、さまざまな動きが始まっているようではある。「今までにどこにもなかった国際展として横浜トリエンナーレを組み立てていきたい」という川俣の言葉に期待したい。

 

さて、その言葉が掲載されている横トリのページは、国際交流基金(以下、「基金」)のウェブサイトにぶら下がっているのだが、このサイトはちょっと見ただけでは何が何だかわからないくらい込み入っている。そもそも、基金とは何であるかの説明を探すのも一苦労だ。ひとことで言えば、日本と海外の文化交流を促進するために国が設けた団体である。外務省所轄の特殊法人として1972年に設立され、昨2003年10月、独立行政法人となった。2003年3月末時点での資本金は1,109億円あまり。全額が政府の出資金である。

 

これだけの巨額を費やして(「巨額」かどうかは異論があるところだろうが、議論がややこしくなるのでここでは措く)「文化芸術交流」「海外における日本語教育」「日本研究・知的交流」という三本柱、それにその他の事業もやっているのだから、ウェブサイトは自ずと込み入ってくる(ウェブサイトづくりに10年近く携わってきた者として言わせてもらえば、やりようはいくらでもあると思うけれど、とりあえずその話もここでは措く)。だがそれ以上に、そしてそれとも関連して問題なのは、基金が主催あるいは支援している、基本的には歓迎すべき文化交流事業が、助成を申請する業界人を除けば、一般にはほとんど知られていないことだ。とりわけ、国外で行われる事業について、それは顕著である。

 

2004年の例で言えば、ある程度知られたのはヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展・日本館と、ミュージカル『太平洋序曲』のブロードウェイ公演くらいではないか。前者は「オタク」がテーマであったこと、後者は人気演出家の宮本亜門が手がけたことが幸いしたのだろう。だがNHKなどで紹介されたとは言っても、世間には知らない人のほうがはるかに多い。それに、それ以外に面白いプチ展示、公演、講演がけっこうあるのである。たとえば……。

 

1月:
バングラデシュ・アジア・ビエンナーレに、アーティストの北山善夫、椿昇、堂本右美を派遣
2月:
ロシア、フィンランド、ポーランドにおいて、ダンスカンパニー「H・アール・カオス」の公演を主催
7月:
第一回クアラルンプール国際文学フェスティバルに、作家の小林恭二を派遣
8月:
ソウル・アニメーションセンターなどに、アニメーション作家の山村浩二を派遣
9月:
欧州6都市で、人形劇団「結城座」の公演を実施
サンパウロ・ビエンナーレに、写真家の畠山直哉を派遣



ジャパン・ソサエティーのサイトは英語のみ

「何でこんなものに支援を?」と首をかしげるものも実はあるけれど、ここに挙げた数例以外にも相当数の表現者が海外に派遣されている。学者・研究者を含めると、膨大な数に上るだろう。それらのほとんどが、関係者以外にはまったく知られていない。文化交流は現場だけの一方通行で、鑑賞者=消費者レベルの交流は、ないと言っても過言ではない。日本と各国の鑑賞者=消費者の双方が、自国以外で開催される事業の存在自体を知るすべがおよそないからだ。少なくとも僕は、このページを見るまで、上に挙げた中で知っていたのはふたつのビエンナーレに関する事例のみだった。それも、たまたまアート雑誌の編集をやっているために関係者からの情報が入ったからであり、そうでなければ永遠に知らなかっただろう。

 

単純にもったいないと思う。何でメディアと連動しないのか。ジャーナリストを一緒に派遣する予算がなければ、事前情報と事後情報(プレビューとレビュー)を、現地の基金事務所の協力も借りて作成し、ウェブサイトのわかりやすい位置に掲載すればよいのだ。面白そうなイベントであれば、ほかのメディアだってフォローするだろう。


1月2日までは東松照明展も開催中

ちなみに2005年の1月7日、8日には、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで第8回 「ジャパニーズ・コンテンポラリー・ダンス・ショーケース」が開催される。これまでにも山崎広太やコンドルズの米国デビューの場となってきたが、今年も金森穣率いる「Noism05」や黒田育世が主宰する「BATIK」、森山開次ら5組が出演する。東京でもなかなか見られない豪華な取り合わせで、この冬にニューヨークを訪れる人はぜひ観ていただきたい。この催しには基金はからんでいないようだが(文化庁の助成は出ている)、この手の情報もあまり聞こえてこない。文化交流というのは、金を出すだけで終わるわけではもちろんない。ちゃんと広報してくれませんか、皆さん?

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。