COLUMN

outoftokyo
outoftokyo

Out of Tokyo

101:異種格闘技としてのライブ
小崎哲哉
Date: November 25, 2004
photo

代官山Unitでのアート・リンゼイ公演初日には、ちょっとしたお楽しみが待っていた。アートはもちろん、メルヴィン・ギブス(b)+ミカ・ゴー(key,sax)の演奏もすばらしかったけれど、それとは別のお楽しみだ。トリオの演奏が始まる前と途中と、都合2回、KATHYのパフォーマンスがあったのだ。

 

photo
KATHY

知らない人のために簡単に説明しておくと、KATHYは女性3人組のパフォーマンスグループだ。3人とも出自はダンスで、コンテンポラリーダンスに分類されることもあるが、本人たちはそれを好まないと聞いたことがある。たいていの場合、ふわりとふくらんだフェミニンなドレスを着て、頭にはブロンドやブルネットの60年代的なウィッグを着け、顔は黒いストッキングで覆い隠している。3人だけで踊ることもあれば、他のパフォーマーと共演することもある。ときとしてそれは、太郎千恵蔵(アーティスト)、津村耕佑(ファッションデザイナー)、シアタープロダクツ(ファッション+演劇?)ら、他ジャンルのクリエイターとのコラボレーションという形を取る。

 

今回は後者のケースというわけだったが、事前予告はなかったし、アートがお目当ての音楽ファンたちのほとんどはKATHYの名前すら聞いたことがなかったのではないか。だからアナウンスメントもなく彼女たちが登場したとき、会場には一瞬だけ戸惑いの空気が流れた。知的にリリカルで、同時にノイジーなアートの音楽とは、率直に言ってミスマッチでもある。けれども聴衆は、不意打ちのようなKATHYの登場を温かく迎え入れた。

 

photo
Photo by Maeda Keizo

KATHYが現れたのは、最初はステージ上ではなく、オールスタンディングの聴衆が待つフロア上だった。人と人の隙間を縫うようにして、センシュアルでしなやかな動きを見せつつステージへ向かう。舞台上でヨーデル(!)に合わせ、3人がマイクを取り合うコミカルな仕草には、大きな笑い声が上がった。KATHYが誰であるかを知らなくても、パフォーマンスの質の高さに聴衆は反応したわけだ。聴衆はアートたちの登場を待ちに待っていた。だからブーイングが出ることさえありえたのに、結果は反対だった。

 

photo

アートは事前に、KATHYの公演をニューヨークで観ていたという。だから彼にとっては不意打ちでも驚きでもなかったわけだろうが、ライブの後で訪ねた楽屋で、RTのミニインタビューにこう答えてくれた。「彼女たちをどう思ったって? Beautifully disturbingだったよ(笑)」。「美しくかき乱してくれた」とでも訳すのだろうか。もちろんこの形容で重要なのは、「美しく」という副詞である(ミニインタビューは来週、「東京芳名帳」にアップする)。

 

この手の共演は、ここのところ少しずつ増えてきているような気がする。前にも書いたことだが、音楽ファンは音楽だけ、演劇ファンは演劇だけ、アートファンはアートだけ、という閉鎖的な状況を、僕は苦々しく思っている。UnitでKATHYを知った音楽ファンが、ステージパフォーマンスやダンス公演に足を運ぶようになるといい。そして演劇やダンスやアートのファンも、もっともっと音楽を聞くようになるといいと思う。クリエイターとオーディエンス双方の異ジャンル交流は、まちがいなく表現者・表現物の質を高める。(2004.11.25)

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。