COLUMN

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Out of Tokyo

099:ソウルより
小崎哲哉
Date: October 28, 2004
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イヨンホールでの記者会見
photo by Lee Seung-ha

『ART iT』韓国特集号をプロモートする記者会見のために、ソウルに来ている。記者会見は10月26日(火)に開いたが、反応は非常に好かった。会場は、国際交流基金ソウル文化センターのイヨン(二縁)ホール。都心にあり、プレゼンテーションのための最新機材を備えた、まだピカピカの多目的ホールだ。急なお願いにもかかわらず、絶好の場所を提供して下さった交流基金の方々のご厚意に感謝したい(第一報は早くも、10月28日付『Korea Herald』に掲載された)。

 

何よりもうれしかったのは、多くのアーティストが来てくれたことだ。パク・ミナ、クォン・オサン、イ・ヒャンク、ササ、イ・スギョン、パク・ユンヨンら「注目アーティスト」に加え、「ART IT, ART THEM」で作品を紹介したデザイナー、キム・ドゥソプも来てくれた。ミニチュアインスタレーションのハム・ジンは「予備軍演習のため」欠席。26日は北朝鮮との国境で鉄柵が切断されていたのが発覚した当日だったが、この国が常に「戦時」にあることが想い起こされた。

 

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アーティストたちも集まってくれた
photo by Lee Seung-ha

たった2カ月ぶりのソウルだったが、いろいろなことが変わっていて驚いた。地下鉄の初乗りは700ウォンから900ウォンに値上げされた。市庁前の広場は、いつの間にか芝生になっている。ダニエル・リベスキンドが設計した江南のビルも完成したらしい。この街の変化は急速で、しかも激しい。

 

アート界の話題は、pkmギャラリーにおけるイ・ブルの新作展、ロダン・ギャラリーにおけるチャン・ヨンヘ・ヘヴィ・インダストリーズの本格的な初個展、サムジー・スペースにおけるグループ展『ハングル・ダダ』、パク・チャンギョンのエルメス賞受賞などなど。イ・ブル展は多数のドローイング、モンスターやサイボーグシリーズの延長線上にある立体、おなじみのクリスタルやビーズで構成されたオブジェ、一見したところセラミックにも見える平面作品から成っている。平面作品(というか平たい立体作品)は、例の官能的な曲線を螺鈿のような素材で白い表面に描きこんだもので、ギャラリーによると「非常に珍しい果物から取った樹脂」でコーティングされている。

 

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チャン・ヨンヘ・ヘヴィ・インダストリーズの『BUST DOWN THE DOOR!(ドアを蹴破れ!)』展
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『BUST DOWN THE DOOR!』より

チャン・ヨンヘの新作は『ドアを蹴破れ!』と題したもので、フラッシュを用いて、同一書体の詩的なテキストをリズミカルかつスピーディに画面に表示する手法は変わらない。だが、ウェブ作品を小さなPCの画面で観るのと、壁面一杯に広げられた大画面に包み込まれるようにして観るのとでは、圧倒的に迫力が異なる。また、BGMにジャズ以外の音楽(キャンディ・ファクトリーの古郷卓司によるストリングスを用いた楽曲)が使われていたのも新鮮だった。『ハングル・ダダ』はタイポグラフィの第一人者、アン・サンスが監修したもので、上述したパク・ユンヨンやキム・ドゥソプも参加している。パク・ユンヨンのデフォルメされたハングル文字は、何が記されているのか理解できない者の目にも、センスとウィットが伝わる美しい作品だ。パク・チャンギョンは、1975年に起こったふたつの事件、ソユーズとアポロのドッキングと北朝鮮による侵略用トンネルをモチーフとした映像作品をつくった。ちなみに映画『オールドボーイ』のパク・チャヌク監督は兄に当たる。

 

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ジャン・ヌーヴェルが設計したMuseum2(リウム)の内部。ウォーホル、ボイス、パイク作品の向こうに、イ・ブル作品が見える
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ホン・ラヤン副館長と

新サムスン美術館「リウム」も噂に違わず素晴らしい建物だった(現在発売中の『ART iT』に記載した表記「イウム」は間違いで「リウム」が正しい)。マリオ・ボッタ、レム・コールハース、ジャン・ヌーヴェルという個性的すぎる建築家が、まったく別々であるとはいえ、ひとつにつながった建築物を同じ敷地内につくったということ自体が奇跡に近い。それぞれが際立っているといえば際立っている。衝突しているといえば衝突している。いずれにせよ、希有な建物であることは間違いない。実質的に今後の運営を担当するホン・ラヤン副館長のインタビューを含めた紹介記事は、1月に発売する次号に掲載する。

 

記者会見で、最も注目を集めたのは特別付録の「ソウル・カルチャーマップ」だった。美術館やギャラリーに限らず、文化的施設やアートショップや注目建築物、さらにはカフェやクラブまでをも地域別にマッピングした詳細な地図で、制作のためにスタッフがぼろぼろになった「労作」だ(ごめん!>スタッフ)。だが、変化の激しいソウルにあっては、この地図が古びるのも早いかもしれない。毎年リニューアル版を出そうかと、半ば以上本気で考えている。またもやスタッフが死ぬかもしれないけれど(笑)。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。