COLUMN

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Out of Tokyo

096:歌謡曲バー出現
小崎哲哉
Date: September 16, 2004
チェ・ジョンファが内装を手がけたバー | REALTOKYO
チェ・ジョンファが内装を手がけたバー

『ART iT』の韓国取材の打ち上げで、ソウルでの最後の晩に飲み屋をハシゴした。アートエリア弘大(ホンデ)にあり、場所柄さまざまなジャンルのクリエイターが集まるバーに始まり、マッコリを飲ませる居酒屋を経て、全部で4軒行った。大学路(テハンノ)にある、アーティストのチェ・ジョンファが内装を手がけたというバーも面白かったけれど、圧倒的に印象的だったのは、コーディネーターの宋信海さんに最後に連れて行ってもらった明洞(ミョンドン)近くの酒場である(カムサハムニダ!>信海さん)。昔、日本にも歌声喫茶というのがあったらしいが、その飲み屋版と言えばよいのだろうか。

 

ソウルの「歌声酒場」 | REALTOKYO
ソウルの「歌声酒場」。ギターを弾いてるのは小崎じゃありません

二階建ての、ちょっと見には普通のパブみたいな店である。白っぽい小ぎれいな内装で、30代中心とおぼしき客が、だいたいみんなビールを飲んでいた。すごいのはギターを奏でる人がいて(しかも1階と2階にひとりずつ)、客がソロで、あるいは声を和して、次から次へと歌を歌うことだ。まあ、非=電気的なカラオケと言ってもいいんだけれど、ワンフロアが一体化するから断じてカラオケボックスではない。曲は中島みゆきみたいな「フォーク歌謡」が多いが、かなり演歌度が高いものも混じる。女優だという華やかな人からエリートふうの銀行マンまで、何人もが見事な歌声を披露してくれた。酔っぱらった勢いで、僕も弾き語りなんぞをやってしまったがそれは忘れたい……。

 

弘大のクラブに行けば、若い世代向けにテクノやエレクトロニカのオンパレードである。でもここでは、大人が自分たちの青春時代の曲を歌い、想い出に浸っている。気持ち悪いと言えば気持ち悪いかもしれないが、酔いも手伝ってか、何だかいいなあ、と思ってしまった。何というか、無理がなくてリアルなのだ。大竹伸朗や都築響一や、つい先日『グランド歌謡ショー キャバロティカ』東京公演を成功させたキュピキュピの石橋義正らが好きそうだと思った(敬称略)。

 

grafの豊嶋秀樹氏と都築氏 | REALTOKYO
grafの豊嶋秀樹氏と都築氏
都築氏とやなぎみわさん | REALTOKYO
都築氏とやなぎみわさん
こぐれひでこ、秋山道男、しまおまほ | REALTOKYO
こぐれひでこ、秋山道男、しまおまほの各氏
この絵はプロデューサーの趣味 | REALTOKYO
この絵はプロデューサーの趣味。別に60年代的、70年代的というわけではない

と思っていたら、その都築響一が歌謡曲バーをプロデュースしたという知らせが入ってきた。恵比寿駅から徒歩3分という好位置にある「X+Y」。店名はちあきなおみ1970年の名曲に由来するという。選曲は都築、内装は大阪のgrafが手がけている。内輪のお披露目に呼んでもらったので早速行ってみたら、大人っぽい、でも気取りのない、非常に好い感じの店だった。シンプルで嫌みのない内装に、昔のナイトクラブはこうだったかも、と思わせるミラーボールが花を添えている。小さいながらステージもあって、いずれはプロの歌手によるライブもやるとか。カラオケは御法度らしい。

 

「実はみんな歌謡曲が好きだったってわかってうれしい」と都築。いままで何軒もクラブやバーをプロデュースしてきたけれど、非常に食いつきがいいという。「昭和の名曲は好きだけど、オヤジのカラオケは聴きたくないって人、多いでしょ。おいしいお酒を飲みながら、しっとりと楽しまなくちゃ。レコード会社からも『よくぞつくってくれました』って言われるんだよね。選曲? それはマック様とiTunes様がやってくれるわけ(笑)」。

 

ともあれ、子供には無縁の大人の遊び場の誕生である。あんまり混んでも困るだろうから住所とかはあえて書かない。大人は大人らしく、自分で探して足を運んで下さい。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。