

今年僕は、トヨタコレオグラフィーアワードの選考委員を仰せつかった。2001年にトヨタ自動車と世田谷パブリックシアターの提携事業として創設された賞で、その名の通りダンスの振付が選考・審査対象となる。選考委員は審査委員とは別で、文学賞でいえばいわゆる「下読み」にあたると説明してくれた人がいた。だが実際には、選考委員会で選出した8名の作品は『ネクステージ』(最終審査会)として一般向けに上演されるので、「下読み」よりは意味も責任も重いように思う。
選考は応募書類とビデオを観た上で行う。およそ200本、1本平均30分として総計100時間のビデオを2カ月ほどの間に観るのは苦行に近かったが、面白い発見もあった。おおよその応募作品は、以下のようないくつかのタイプに類型化できる。
「同好会ふう仲よし集団タイプ」
「体育会的汗かき集団タイプ」
「ナルシス系自己顕示タイプ」
「狂女もの的女の一生タイプ」……。
最初のものは「勘弁してくれ」と言いたくなる作品がほとんど。2番目のもたいていどこか勘違いしている。3つ目と4つ目は単純に辟易させられることが多い。とはいえもちろん例外はあるわけで、その例外こそが高い評価を得ることになる。

photo: 塚田洋一

photo: 新良太

photo: Soren Do


photo: 川崎真嗣

photo: 谷敦志

photo: Nathan Wilkus

photo: 増永泰幸
何とかすべての応募作品に目を通し、二日間朝から晩までカンヅメとなる選考会に臨んだ。カルチャーウェブジンの編集長とはいえ、単なるファンでしかない門外漢の僕以外は、全員が専門家である。大学で舞踊身体論や芸術生理学を教えるKMさん、作曲家でダンス批評家のSKさん、演劇・舞踊ジャーナリストのTHさん、パフォーミングアーツのプロデューサーのSRさん、同じくHAさん、同じくKKさん。彼らの強みは、すべてではないとはいえ応募振付家の作品いくつかを、ナマで観たことがあるという点だ。応募作品とは違う作品であっても、振付家の力量を測る上で大いに役立つのは無論である。場数がまさしく桁違いに低い僕は、「一般観客代表」という心持ちで参加することにした。
選考は目的にふさわしく政治的に、そして打算的に行われ、したがって票が割れ、異常に時間がかかった。といっても、裏工作や不正な取引があったとかいう話では断じてない。業界に属するプロが、業界のために行う選考であるのだから、そこに政治的発想や打算が働かないわけはない、というだけのことだ(というよりも「選考」という行為は、そもそも政治的なもの以外ではありえないだろう)。何よりも一般上演を前提とした選考であるのだから、興行に際しての現実的な配慮が必要となる。具体的には、養生や舞台美術上の実現可能性、ソロとグループのバランス、そして興行を金銭的に成立させるための動員力。このうち最後の「動員力」については、振付家の知名度や過去の実績が決め手となるという考えが成立しうるわけで、僕はそこに疑問を抱いた。既知の才能ではなく、未知数の人材を掘り起こすことこそ、この種のアワードには必要なのではないか。
アワードの目的として「次代を担う振付家の発掘・育成」が謳われている。その「次代」をどう定義するかによるのだろうが、僕は上述した疑問から、矢内原美邦の選出には反対した。矢内原はすでに(「次代」どころか)「現在」を担っている、と思うからだ。ともあれ長い討論と再三にわたるビデオ鑑賞を経て、以下の8組が受賞者となった。
新鋪美佳・福留麻里
大橋可也
可世木祐子
常樂泰
高野美和子
東野祥子
康本雅子
矢内原美邦
各選考委員の主張と志向を確認するために、途中で何度か模擬的な投票を行ったが、最初から最後まで一貫して首位だった者や「当確者」だった者はいない。毎年同様だというが、結果は極めて僅差であり、議論の流れによって如何様にでも変わった可能性があったことは明記しておきたい。『ネクステージ』は7月3日、4日の2日にわたり、シアタートラムで行われる。チケットはすでに完売しているとのことだ。
【この項、続く >> トヨタアワード II 】
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。