


関西圏の人ならよくご存じのように、京都には目配りの利いた読書人好みの書店が何軒かある。寺町二条の三月書房、河原町三条のメディアショップ、一乗寺の恵文社などなど。もちろん東京にも、ナディッフや青山ブックセンターやリブロブックセンターがあるけれど、たぶん京都の店のほうが規模がいくらか小さいせいだろう、その分だけ親密で気のおけない感じがする。あれだけ「イケズ」の街なのにね(失礼!)。大阪の状況は僕は詳しくないけれど、最近出かけてきたスタッフの「優」によれば、Calo Bookshop and Cafe、ベルリンブックス、Colombo Design Storeなど、雰囲気のよい書店、あるいは洋書や古書を扱う雑貨店が増えているという。札幌には、RT寄稿家のひとり津田知枝さんが、アートと建築関連の書物を集めたライブラリー兼ブックショップThink Gardenを開設した。
書店状況は(北海道を除いて)西高東低? かと思ったが、実は東京も少しずつ変わりはじめている。十数年前に中央線沿線を中心に始まった古書店の静かなブームが定着し、渋谷駅近くの「のんべい横町」には古本カフェNonみたいな店ができている。渋谷古書センターの2階には、和洋ビジュアルブックを扱い、バーまで併設するFlying Booksがある。中目黒のCow Booksは表参道に2号店を出した。写真集専門店のShelf、ワタリウムのミュージアムショップOn Sundays、老舗の嶋田洋書などもあるから、渋谷・青山・原宿界隈は今や新古書店、アートブックショップの激戦区だ。

そしてこの5月の連休明けに、青山一丁目にBOOK 246が開店した。古いビルをデザイナーズマンションに「R」して話題となった、ラティス青山の1階路面。数坪しかない小ぶりな店だが、「地上で読む機内誌」を標榜するバイリンガルのトラベルカルチャー誌『PAPER SKY』がプロデュースし、旅をテーマにした2000冊ほどの和洋の新刊、古書、雑誌、100アイテムほどの雑貨などがセンスよく並べられている。すぐ隣に同時オープンした気持ちのよいCafe 246で、「仕掛人」のひとり、幅允孝氏に話を聞いた。Tsutaya Tokyo Roppongiなども手がけたベテランのブックコーディネーターだ。


「海外では10坪程度の専門書店が生き残っているけれど、日本では郊外の大規模書店が増えるばかりでしょう。あるテーマを持った小売店を、きちんとつくってみたかったんです。(スターバックスを併設する)Tsutaya Tokyo Roppongiのケースを見て、カフェと本屋の親和性が高いことはわかっていました。でも、ハンパなブックカフェみたいなのはイヤだったから、王道感を出すために(大手取次の)日販さんからも仕入れています」
「おかげさまでよく売れていて、今月は損益分岐点を何とか超えそうです。やはり売上を成り立たせることが前提で、そのためには地域密着型のトラベルエージェンシーみたいなこともできたらいいな、と思っています。『PAPER SKY』は旅の経験値を持っているので、そのノウハウを活かして、青山一丁目という地域のメディア、周辺企業のニーズに合わせた旅に関するシンクタンクになれればいいな、と」

同席してくれた『PAPER SKY』編集長のルーカスB・B氏も声をそろえる。
「『PAPER SKY』の世界観を立体化したかったんですよ。『旅』というキーワードで考えていったら本屋になったんです。といっても、旅を感じさせる小物も扱います。BoseのQuiet Comfortとか、AppleのiPodとかね。うちはいわゆる『本屋ブーム』とはちょっと違う。10年〜20年というスパンで考えたいですね」
幅さんによれば、昨今の書店ブーム、ブックカフェブームは、「みんな本屋のアトモスフェアが好きなだけで、本屋は増えていても本は読まれていないのでは?」とのことだ。さらに「2年前のカフェブームと同じで、今年は『本屋バブル』がピーク」という辛らつな言葉も。とはいうものの、画一的な棚を並べる書店に飽き足らない本好きは少なくない。先ほど「激戦区」と書いたけれど、そういう本好きにとっては、ハシゴもまた楽しからずや、だ。週末の散歩がますます楽しくなったことをうれしく思う。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。