

いま東京でいちばん刺激的なイベントスペース、おなじみのスーパーデラックスに出かけて、『ぺちゃくちゃないと』なる一夜に参加してきた(4月28日)。十数人の参加者が、1枚につき20秒間映写されるスライド映像20枚、もしくは総計400秒の動画映像を前に、「ピクニックの想い出から、仕事の宣伝告知まで」何を紹介してもよいという「プレゼンイベント」である。これまでに12回開催され、RTの寄稿家、カンバセーションの前田圭蔵さんや、『Composite』編集長の菅付雅信さんも出演したことがある。

地味そうな内容ゆえ、聴衆は少ないんじゃないかと予想していた。ところが予想に反して、会場は立見まで出るびっしり大盛況。入場者は200人を軽く超えていたんじゃないだろうか。おそらく大部分は、SAANAこと妹島和世&西島立衛のプレゼンに期待していたのだと思う。そのふたりを含め、出演者には日英の建築家が多かった。イベントの企画者が、スーパーデラックスの運営陣に名を連ねる建築家ユニット、KDaことクライン・ダイサム・アーキテクツであるからだろう。ちなみに以前には、伊藤豊雄、アトリエ・ワン、長谷川逸子ら、人気建築家が多数参加している。とはいえ(上述したふたり以外に)、これまでにグラフィックデザイナーの東泉一郎、同じく生意気、音楽家のモーガン・フィッシャー、ギャラリストのカーラ・ベッシャー、イラストレーターのヒロ杉山、ファッションデザイナーの津村耕佑、アーティストの日比野克彦の各氏ら、畑違いの表現者も出演している。

僕は『ART iT』の宣伝をさせてもらったが、それはまあいい。面白かったのは、やはり建築家のプレゼンテーションだった。アンドリュー・ハミルトンは、末期癌患者のためのホスピスのアイディアを提示した。原田真宏と原田麻魚は、「トヨタ・カローラ1台分」すなわち150万円(!)で建てた家の成り立ちを紹介した。中村拓志は、2月に銀座にオープンしたランバンブティックの、柔らかな採光を実現した窓をつくる手法について解説した。善養寺幸子は、あでやかな和服姿で、気候風土の特性を活かしたエコ建築の実例を見せた。そしてSAANAのふたりが見せたのは(羽田空港への侵入者騒ぎで会場入りが遅れたが)、もちろん10月オープンの金沢21世紀美術館だった。

複数の建築家の作品を、スライドとはいえまとめて見る機会はそれほど多くはない。しかもその際、本人たちによる解説が付く。400秒というのは、短いようでいてけっこう話しでがあるし、下手にだらだらしたプレゼンより、凝縮される分だけ要点を捉えやすい。お望みとあれば、プレゼンの後にもっと詳しい話を個人的に聞くこともできる。互いにグラス片手だから、人となりもしらふで会うよりわかりやすいかもしれない。家を建てたい、あるいは建てかえたいという人には、こんなイベントが頻繁に開かれていると大助かりなんじゃないだろうか。建築雑誌を何冊も買い込むよりも、ずっと早いし、ずっと効率的だ。

会場には、外国人の姿もかなり目立った。もちろんKDaのふたり(アストリッド・クラインとマーク・ダイサム)の人脈だろうが、ふたりの2カ国語による司会のおかげで、外国人も日本人も同様に楽しめたと思う。言語の壁を越えて、同じ情報を多くの人が共有し、コミュニケートする。これって、RTの在りようととてもよく似ている。このイベントは、ぜひ長く続けてほしい。アストリッド&マーク、よろしくね(第14回『ぺちゃくちゃないと』は5月26日に開催される)。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。