COLUMN

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Out of Tokyo

084:ダンスが中止になるとき
小崎哲哉
Date: April 01, 2004

週末に出張した大阪で、大阪万博をテーマにしたアートイベントがあった。建築家の菊竹清訓やアーティストのヤノベケンジ両氏らが参加するものでとても面白そうだったけれど、スーパーデラックスで開催される『六本木ダンスクロッシング』(以下、『ダンスクロッシング』)を観に行くことにしていたので東京に戻った。開演の1時間ほど前に事務所に着いてパソコンを立ち上げると、あららら、企画協力者の桜井圭介さんから「緊急・六本木ダンス中止のお知らせ」というメールが入っていた。

 

Kathy | REALTOKYO
Kathy

『ダンスクロッシング』は、森美術館で開催中の展覧会『六本木クロッシング』の関連企画として開かれる予定だったダンスイベントだ。APE、KATHY、風間るり子(黒沢美香)、身体表現サークル、たかぎまゆ、ボクデス、康本雅子、矢内原美邦らが出演し、日本のコンテンポラリーダンスの現在(の一面)を切り取った、ショーケース的な一夜となるはずだった。中止の原因はもちろん、3月26日に起こった、6歳の男児が六本木ヒルズの回転ドアにはさまれて死亡したという事故である。

 

事故自体はいうまでもなくきわめて痛ましいものだし、その後、六本木ヒルズ関連の催事が続々中止になったのも、ある程度はわからなくはない。桜のライトアップなんていうのは、もちろん取りやめるべきだろう。だが、「六本木ヒルズ主催」ではなく「森美術館主催」であり、浮かれ騒ぎとはほど遠い『ダンスクロッシング』などのようなイベントは性質が異なるのではないか。「『歌舞音曲』はすべて自粛すべし」というような、一種の自動的な思考停止による拙速な判断が、そこにあったのではないだろうか。

 

中止決定に至る時間の流れを見ると興味深いことがわかる。以下、複数の関係者の話を綜合してみた。ちなみに『ダンスクロッシング』は、3月28日(日) 18:30に開演が予定されていた。

 

3月26日(金)

11:30頃
事故発生
14:00頃
六本木ヒルズアリーナで同日17:10より開催予定のイベント『アリーナスプリングパーティー』が中止となった旨、リハーサル中の同イベント出演者に告知される
16:40 
森美術館より筆者(小崎)に「『ダンスクロッシング』予約番号のお知らせ」がEメールで送られてくる

3月27日(土)

14:00頃
森美術館より、外部企画協力者へ「中止」の第一報
夕方  
美術館より予約者に「中止のお知らせ」がEメールで送られる

 

康本雅子 | REALTOKYO
康本雅子

『アリーナ スプリング パーティー』中止決定と『ダンスクロッシング』中止決定との間に、ほぼ1日の時差がある。事故が発生し、『スプリング パーティー』中止が決まった26日の時点では、美術館の担当者は、『ダンスクロッシング』開催の方向で進んでいたのだろう(筆者に「予約番号のお知らせ」が送られてきたことから、それは明らかだ)。「時差」について問い合わせてみても「回答できません」との返事なのでここから先は推測だが、開催か中止かをめぐる議論の果てに、森ビル株式会社の強い意向もあり、苦渋の決断をしたということではないだろうか。美術館広報によれば、『ダンスクロッシング』と『六本木クロッシング』授賞式はとりあえず開催を見合わせたが、それが「完全に中止」なのか「延期」なのかは未定。これから行う予定だったそのほかのイベントの開催、中止、延期についても未定。発表は美術館広報ではなく、森ビル株式会社広報を通して行うという。むむむむー。

 

身体表現サークル | REALTOKYO
身体表現サークル

28日当日には、スーパーデラックスに「中止」の貼紙を掲示すると共に、美術館の担当者が現地に赴いて事後処理にあたり、予約者には『六本木クロッシング』展の招待券を手渡したという。出演者や制作スタッフへの補償などは今後の交渉となるらしいが、突発的事故後の限られた時間の中では、誠意ある対応であったと思う。だが、中止に至る論理をとことん窮めてゆくと「美術館も休館すべし」という結論になりはしないか。『六本木クロッシング』授賞式の中止は、式に「お祝い」という側面があるからまだわかる。けれども、なぜ美術館の通常営業は続けたまま、『ダンスクロッシング』を中止したのか、論理的に整合していないように思える。

 

だから今回の「中止」は僕には納得がいかない。大げさかもしれないが、昭和天皇崩御の際の「自粛」騒ぎさえ連想してしまう。また、森ビル株式会社の広報に情報発表窓口を一元化するという方針もあんまりだ。いくら森ビル株式会社が経営母体だとはいえ、森美術館はすべからく独立した文化組織である。運営方針には一線を画してしかるべきだと思うがいかがだろうか。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。