
横浜みなとみらい線ができた。東京から元町や中華街に行くには格段に便利になる一方、わが愛する野毛エリアはますます閑散とすることだろう。「ジャズと演歌の店」なんていう看板を掲げるシブイ飲み屋があるけれど、いつまで保つことやら……。

そのみなとみらい線は馬車道駅の近くに、歴史的建造物を利用したアートスペースができるというから、記者会見に行ってきた。ひとつは「近く」どころか駅の真上にある旧第一銀行。1929(昭和4)年に建てられた古典主義様式の建物で、2003(平成15)年に復元された。もうひとつも駅から1分もかからない。同じく1929年に建てられた石造の旧富士銀行だ。建造年と由来から、ふたつの建物はそれぞれ「BankART 1929 Yokohama」「BankART 1929 馬車道」と名付けられた。両者を総称し、またこのふたつを拠点として行われるアート活動プログラムを「BankART 1929」と呼ぶそうだ。運営するNPO団体の名称でもある。

カフェやパブが併設された建物では、展覧会やコンサートを開いたり、アーティストにスタジオを開放して作品を制作させたりするという。「BankART 1929 Yokohama」の1階ホールは天井高7メートル、320平米。「BankART 1929 馬車道」のホールも323平米だというからかなり広い。ただし前者は天井高がわざわいしてか、残響が6秒も続くという。記者会見のスピーチも聞きづらかったから、出し物を選ぶホールになりそうだ。後者はまだ内装工事が終わっていなかったが、こちらはもう少し使い勝手がよいように見えた。
気になるプログラムは、といえば、3月6日(土)のオープニングシンポジウムを皮切りに、北川フラム氏(越後妻有アートトリエンナーレのディレクター)や細江英公氏(写真家)の講演、楢橋朝子氏(写真家)による映像インスタレーション、珍しいキノコ舞踊団のダンスを含むパーティ、弦楽三重奏グループ「トリオロジー」のコンサート、「BankARTスクール」(通称BAKAスクール)、さらには「大野一雄フェスティバル」(大丈夫か!?)、イベント「食と現代美術」など。BAKAスクールは美術評論家の村田真氏が校長を務め、平岡正明(評論家)、五十嵐太郎(建築史家)、山田うん(振付家/ダンサー)、森山大道+鈴木理策(写真家)、うにたもみいち(演劇評論家)、巻上公一(音楽家)、島袋道浩(アーティスト)、川俣正(アーティスト)ら各氏が講義やワークショップを行う。盛りだくさんな内容だが、単発のイベントが多く、どことなく「寄せ集め」感が漂う。

よくよく聞いてみると、横浜市が「文化芸術・観光振興による都心部活性化検討委員会」を設置したのが2002(平成14)年11月。14年度末、つまり2003年3月に中間答申が出され、同年5〜6月に内部検討を行い、9〜10月に応募骨子を固めた。そして最終的に民間から事業運営団体を公募したのは昨年の11月で、二度にわたる審査を経て、「演劇・ダンス系」のSTスポットと「美術・建築系」のYCCCプロジェクトというふたつの団体に「共同で運営に当たらせる」という決定が出たのは何と今年の1月13日だという。オープニングまで2カ月を切っている! お役所の会計年度が4月〜翌年3月だという都合はあるにせよ(いや、だからこそ)もっと時間をつくってやれよ!>行政

BankART 1929館長の岡崎松恵氏(STスポット元館長)とYCCCプロジェクトの池田修氏いわく「チームができたのが1月13日ですから、大きな展覧会でスタートを切るようなことはできなかった。1日単位のイベントであれば何とかお願いできる可能性があるので、人脈作戦で乗り切ろうと思いました」。いや、「寄せ集め」なんて失礼なことを申し上げた。短期間の内に、よくぞここまで固めたものだ。
とはいえ前途は多難そうだ。運営予算は当面は人件費を含めて3000万円しかなく、助成その他を加えて目標は年間8000万円。さしあたっては時限事業で、2年後に評価を行い、存続か休止かを決めるという。港町横浜には芸術文化を尊ぶ美風と歴史があるとはいえ、現在のような逆風下では苦戦を強いられるに違いない。東京から、みなとみらい線に乗って、なるべく足を運ぶようにしたいと思う。もちろん帰りがけには「ジャズと演歌の店」にも立ち寄るつもりだ。どちらも大切な「横浜の文化」である。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。