COLUMN

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Out of Tokyo

081:東京国際芸術祭
小崎哲哉
Date: February 19, 2004

「ユーラシア・フェスティバル」という副題を関する『東京国際芸術祭2004』が始まった(3月28日まで)。演劇とダンスしかないのだから、以前のように『東京国際演劇祭』あるいは『東京国際舞台芸術フェスティバル』でいいと思うのだが、いつの間にか「演劇」も「舞台」も取れてしまった。それはともかく、10回目となる今回の目玉は、クウェート、レバノン、パレスチナの「中東3カンパニー公演」だろう。初日の2月12日に、クェートから来たスレイマン・アルバッサーム・シアターカンパニーの『アル・ハムレット・サミット』を観たが、予想以上に強烈な舞台だった。

 

アル・ハムレット・サミット | REALTOKYO
スレイマン・アルバッサーム・シアターカンパニー『アル・ハムレット・サミット』
写真: 石川純

黒と赤を基調としたシンプルなステージに、客席に正対するかたちで6つの机が並んでいる。国際会議場を想わせるその机上にはマイクスタンドと名札と小さなCCDカメラが置かれ、それぞれの名札にハムレット、ポローニアス、クローディアス、ガートルード、レアティーズ、オフィーリアと書いてある。そう、物語はタイトルが示すとおり、シェイクスピアの『ハムレット』を下敷きにしている。ただし舞台はデンマークではなく、現代中東アラブの小王国だ。舞台奥の大スクリーンには「1948-2004」という文字が見て取れる。

 

王子ハムレットを中心とする愛憎劇、という骨子はそのままである。だが王位を継いだクローディアスが信奉する神は「オイルマネー」であり、先王の死の真相を告げるのは亡霊ならぬ英語を操る「武器商人」。スクリーンには、湾岸戦争の際の燃えさかる油田が投影される。そしてクライマックス。全員が死に、敵国から攻め込んだフォーティンブラスが高々と宣言する。「今こそ夜が明き、創生されるのだ。偉大なるイス、イス、イスラ……」。

 

FaceA/FaceB | REALTOKYO
ラビア・ムルエ&リナ・サーネー『FaceA/FaceB』

いささかの曖昧なところもない、内角高めの剛速球という印象の舞台である。第二次湾岸戦争が起こってしまった(いや、継続中の)いま、時宜を得た芝居と言ってもいいかもしれない。軍歴詐称が云々される好戦的な某国大統領殿のおかげで、遠く離れた極東の我々も、以前に比べれば中東地域の情勢についてわずかながら知るようになった。それにしても「偉大なるイスラ……」の人々は、この芝居をどのように観るのだろう。

 

それはわからない、あるいは言わずもがなだが、日本人の、それも舞台芸術の専門家たちの印象は簡単に読むことができるようになった。『東京国際芸術祭』を運営するNPO法人アートネットワーク・ジャパンが、随時更新の「劇評通信」を始めたのだ。書き手は演劇評論家の扇田昭彦、演劇・舞踊ジャーナリストで『バッカス』編集長の堤広志、RTでもおなじみ、舞踊評論家の乗越たかお氏ら。財政的な理由で、英訳を掲載する予定はいまのところないということだが、それでもうれしい。

 

アライブ・フロム・パレスチナ─占領下の物語─ | REALTOKYO
アルカサバ・シアター『アライブ・フロム・パレスチナ─占領下の物語─』

『アル・ハムレット・サミット』は残念ながら17日(火)に終わってしまったが、19日(木)〜22日(日)にはレバノンのラビア・ムルエ&リナ・サーネーによる『Face A/Face B』と『BIOKHRAPHIA─ビオハラフィア』が、25日(水)〜29日(日)にはパレスチナのアルカサバ・シアターによる『アライブ・フロム・パレスチナ─占領下の物語─』がそれぞれ上演される。中東3カンパニー公演以外の演劇やダンス公演も様々な場所で催される。劇評も続々と公開されるだろうから楽しみだ。

 

さて、今日は『Face A/Face B』と『BIOKHRAPHIA─ビオハラフィア』の初日である。そろそろ出かけなくっちゃ。行ってきま〜す!

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。