
『ART iT』第2号の制作・入稿作業が佳境に入っている。メインとなる特集は「アートとデザインの境界線」。横尾忠則、田名網敬一というふたりの巨匠に加え、いま最も元気のよい「境界線上のクリエイター」にして自称「メディアレイピスト」、宇川直宏の(佐藤直樹による)インタビューを掲載する。信じられないほど豊穣多産な活躍ぶりは、デザインやアートワークやPV制作やVJ活動やビックリマークが多い文章にとどまらない。泣く泣くカットしたインタビュー原稿は、それでも読み応え十分な質と量。1月17日(次号発売日)を期して待たれよ!

その宇川くんのインスタレーションが展示されていると聞いて、裏原はLAD Musicianのショップに行ってみた。もとは普通の家だったというけれど、言われなければ気づかないほどいい感じに「R」されている建物だ。だが2階に上がると、1階のクールな空間とは違って、いきなり6畳の和室があって往時を偲ばせる。宇川作品はそこにあった。
畳の上に、約50台のラテカセが正面向きに並べられている。奥には、ほとんどがB級映画とおぼしい800本ほどのビデオの山。ラテカセのモニターには何やらニュース番組らしき映像が流れているが、同期がうまく行かずにちらちらしている画面もあれば、完全に死んでいて何も写っていない画面もある。年代物だから仕方ないが、よーく見ると映像自体も年代物だった。1989年、昭和天皇崩御の折りの特別番組だ。宇川くんの口癖をまねするワケじゃないけど、ヤバイ、ヤバイ。ヤバーーーーーーイーーーーーッ!!!!!!

本人に聞いてみると、ビデオはすべて自前のコレクション。ラテカセは半分近くは自分のもので、残りは高円寺にある専門店に借りたとのこと。そして天皇崩御の映像は実際に室内にあるトランスミッターから送信していて、何と近隣数百メーター以内では、ある周波数に合わせると同じものが見える! いいのか、宇川くん? これって海賊放送?
「境界線」どころか、時代の先端を走る過激でまっとうなアート作品だ。いい加減な自称アーティストのぬる〜いインスタレーションに比べるまでもなく、テーマも、マテリアルも、組み合わせも、作り込みも、お好みであれば「問題意識」や「文脈」とやらも、すべてがクーーーーーーーールッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!
本人は「アートに思える? そう?」とやや心配げだったけれど、紛れもなく最高級のアートであると太鼓判を押そう。美的で、知的で、過剰で、笑えて、何かが心に引っかかって、考えさせられて、感じ入って、最後に震えが来る。未見の人はいますぐ裏原に走るべし。

作品名を尋ねると「う〜ん、なんとかって付けたんだけど忘れた。いいよ、もっといいの付けるから」と実にいい加減なお答え。で、その「もっといいの」もまだ連絡がない(笑)。まあ、名前なんてどうだっていい。あのパワーとインパクトがあれば名前なんて要らない。
LAD Musicianに訊いてみたら「一応、年内いっぱいは展示を続けます」とのこと。でも、「一応ってどういうこと?」と重ねて訊いたら、「宇川さんの新しいビデオ作品ができ次第、それに変える予定なんです。でも……」というお答え。宇川くんの「超」が付く多忙ぶりは業界では誰もが知っている。だからまだ大丈夫だとは思うけれど、美術館じゃないから急に差し替えられる可能性がないとはいえない。やはり未見の人はいますぐ走るべし。べし!
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。