COLUMN

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Out of Tokyo

073:Sarai訪問
小崎哲哉
Date: October 31, 2003
Sarai訪問 | REALTOKYO
Saraiの入っている建物

『ARTiT』の創刊前日に、後ろ髪を引かれつつ成田を発った。目的地はインドの首都デリーと、ブータンの首都ティンプーだ。国際交流基金の依頼で、小説家の宮内勝典さんとふたり、ネール大学やブータン国立研究所で講演を行った。両国とも知識人たちの議論は活発で、基金デリー事務所の方々の行き届いたサポートもあり、非常に得難い体験となった。

 

デリーでは講演の合間にSaraiを訪ねた。この連載の12回目にもちょっと触れた、フリーソフトを配布したり、様々な文化活動を行ったりしているNPOだ。都市文化やメディア史に関する学際的な研究を奨励し、クリエイターや技術者と学者のコラボレーションを進め、非エリート層や地域の人々のために新しい技術に関するワークショップや各種プログラムを開催することなどを目的としている。直前に電話を入れただけの突然の訪問だったが、プログラムコーディネーターのラニータ・チャタジーさんが温かく迎えてくれた。

 

Sarai訪問 | REALTOKYO
Saraiのウェブサイト
http://www.sarai.net/

チャタジーさんによればSaraiは、1998年に3人のドキュメンタリー映画作家らを中心に活動を開始した。後にインスタレーションやソフトウェア制作も行うようになるグループで、BBSで都市文化について討論することからはじめ、当初はデリーだけだったが、現在では国全体をカバーしている。オールドデリーの一角にある擬コロニアルスタイルの建物の地下1階と1階部分を占め、映写室兼セミナールーム、パフォーマンスも行える小さなギャラリー、メディアラボ、アーカイブ、カフェなどを備える。運営のための資金は、さまざまな企業や財団からの寄付で賄っている。

 

「小さいながら、映画の上映会やマルチメディアインスタレーション、ワークショップなど、一通りのことができます。スタッフは20代がほとんどで、フルタイムで勤務しているのは25人くらい。アーティストインレジデンスも年に4人ほどいます。もちろんウェブサイト上でのフリーソフト配布も継続中です。公共空間というものはインドでは伝統的ではなく、9・11以降、文化的公共空間は減少の一途だけれど、がんばっていきたい」

 

ボリウッドとITの国らしいといえばらしいが、オルタナティブカルチャーの場である以上、運営は容易ではないだろう。とはいえこのような組織は、日本ではちょっと見当たらない。映画やアートや各種パフォーミングアーツなどのクリエイターと、プログラマーなどの技術者、そして研究者や学者とが協働作業を行う場? 企業の中にはもちろん、自治体にも大学にも存在しないのではないか。

 

Sarai訪問 | REALTOKYO
ラニータ・チャタジーさんと

ふと思ったのが、馬場正尊さんや佐藤直樹さんらが進めている「R-Project」や「TDB-CE」のことだった。両プロジェクトでは、都心の空洞化地域を、主にアーティストや建築家らの移住によって活性化することを目指している。ここに技術者(あるいはIT関連企業)、研究者(あるいは大学)らを巻き込んだらどうか。悪いけどアーティストは一般にカネがないから、彼らだけではあまり地域に歓迎されないだろうし、何となく街がショボくなる(失礼)。ここに、現実にカネを生む、あるいは生みうる頭脳集団を加えれば、地域にとってもよい話だし、後々のコラボレーションも期待できるのではないだろうか。

 

そのためには通信インフラなどの整備や、税制上の優遇措置などいろいろなインセンティブが前提となるだろう。このあたりは地元の企業や自治体を口説くしかないだろうが、チャレンジングではある。「TDB-CE」では、僕も宇川直宏、玉田俊雄、八谷和彦、原田幸子、東泉一郎ら各氏とトークショーに参加する予定なので、そこで話してみようかしらん。「TDB-CE」について、詳しくは「Tokyo, 4 Weeks」の田島則行さん原稿をお読み下さい。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。