
このご時世に、なんとバイリンガルの季刊アート雑誌を出すことになった。タイトルは『ART iT』。どこかの出版社に頼まれたわけでも、大口スポンサーのひも付きでもない。発行元はRTを運営するNPO法人リアルシティーズ、制作を担当するのもほぼRTのスタッフか、周辺の同志的編集者だ。10月17日(金)に店頭に並ぶ(はず)だから、今は相当にテンパっている。まあ、いつもテンパってるといえばテンパってますが。

撮影:小崎哲哉
最初はかなり薄い、フリーペーパー的なものを出すつもりだった。前から書いているように、ウェブジンというバーチャルな媒体だけだとどうしても欲求不満が高じてくる。RTに入ってくるアート情報を精選し、クォリティの高い情報「紙」がつくれれば、という軽いノリだった。ところが、水戸芸術館の逢坂恵理子さんや、「東京仕掛人日記」を書いて下さっている窪田研二さんと話しているうちに、オノ・ヨーコさんのインタビューが取れることになった。となると、とたんに欲が湧いてくる。あれもこれも、とみんなで口角泡を飛ばした結果、以下のような特集を組むこととなった。
● 特集1:オノ・ヨーコ展
● 特集2:森美術館オープン
● 特集3:日本の注目若手アーティスト10人

特集1ではオノさんのほか、展覧会のキュレーターであるアレクサンドラ・モンローさん、それにオノさんと半世紀近い親交を持つ実験映画界の巨匠ジョナス・メカス氏のインタビューを掲載する。特集2ではデヴィッド・エリオット館長にたっぷりとお話を伺う予定。特集3は出てのお楽しみだけど、アート業界ではけっこう話題になると思いますよ、ふっふっふ。
それ以外に、最新アート情報や、全国の主要現代美術館、現代美術ギャラリーのスケジュール一覧、さらには大西若人、辛酸なめ子、都築響一ら、ある人々に言わせれば「異色の」、でも僕に言わせればきわめてまっとうな寄稿家によるコラムも掲載する。アーティスト・インタビューも、オノさんだけではなく、大物が続々登場。お楽しみにね。
なんでこんな無謀な(と人には言われる)計画を企てたのか。まあ、アートブームに乗っかってやろうというスケベ根性も否定はしないが(わっはっは)、実は根性はあっても金儲けの才覚はあまりないので(哀)、大赤字になる可能性も相当にある。それでもやろうと思ったのは、RT創刊の時と同じような思いがあったからだ。日本のアートシーンは孤立している。海外との言語的なコミュニケーション、すなわち情報や批評の交換、共有がほとんどない。しかもちゃらちゃらした国内メディアは(『BT』などの一部メディアはがんばっていると思うが)ブームにかまけてアートの周辺情報ばかりに夢中になり、本質的なアート談義を十分に行っていないように見える。ブームなんて一時的なものだから、ただでさえ袋小路に入っているといわれる現代美術は、このままだと先細りになるばかりでは?

あえてナイーブなことを書いておけば、僕はアートとは「過剰なもの」「常人にはない、過剰な欲望を表現するもの」だと思っている。いうまでもなくこれは必要条件にすぎないし、アーティストなら誰だって何かしらの「過剰さ」を持っているだろう。でもその欲望の量こそが、正確に言えば自らが持つスキルによってその欲望をどれだけ過不足なく表現できるかが、アーティストの力量にほかならないのだと思う。
『ART iT』はそのようなアーティストのみを作家として認め、誌面で取り上げてゆきたい。ちなみにオノ・ヨーコさんもジョナス・メカス氏も、実に過剰で、かつチャーミングな人たちだった。ふたり合わせて150歳! 『ART iT』も長寿雑誌を目指さなくちゃね。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。