COLUMN

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Out of Tokyo

067:IMAの転進
小崎哲哉
Date: July 17, 2003

6月下旬のある日。So-netから数枚のTシャツが送られてきた。都築響一の『賃貸宇宙』、大竹伸朗の『落合ダブ平商店』、キュピキュピの『パーソナルアタック』等々。はは~ん、やっと届いたね、と思った。僕はSo-netが運営するIMA(インターネット・ミュージアム・オヴ・アート)のパスポート会員になっていて、毎月サイトを観放題であるほか、収蔵作品のTシャツがもらえるという特典があるのだ。それにしてもまとめて送ってこなくたっていいのに……と思っていたら、袋から紙片がはらりと落ちた。「IMAサービスは7/31(木)を持ちまして閉館とさせていただきます」と書いてある。どひゃー! 「開館」からまだ1年半ちょっとしか経ってないじゃないの。

 

都築響一 | REALTOKYO

さっそくIMAの企画者で「館長」でもある都築響一に会うことにした。すっかり意気消沈、かと思ったらそうでもない。巨体を縮こませることもなく、「ひどいじゃない、毎月3000エンも払っていたのに」というジャブに、いつもながらの人なつっこい笑顔で答えてくれた。「ごめんごめん。読み違いっちゃあ読み違いなんだけどぉ……」。開館当初から耳にしていたが、やはり会員数が伸び悩んだのが「閉館」の最大の理由だという。

 

「アクセス数は月何万人とかあるんだけど、みんな手前でめげちゃう。ウェブはタダだっていう考えに慣れちゃってるのね。あと予想外だったのは、回線のスピードが上がっているっていうけど、それはオフィスだけで、学生なんか、家ではモデムピーピー(ダイアルアップ)でいいらしいのね。会社員も、会社のアドレスだとアカウントつくれないし」

 

IMA | REALTOKYO

「これも意外だったんだけど、IMAはクレジットカード決済でしょ。ところが、最近はカード会社の審査が厳しくなっていて、学生にはあまり発行してくれないんだって。だから『観たいけど、カード持ってないから』っていう子が何人もいた。ネットは進んでるっていうけど、少額決済とかまだまだ全然ダメでしょう。新しいテクノロジーって弱者のためにこそ必要だと思うんだけど、今の銀行や信販会社って、大きい企業しか見ていない」

 

「つくるほうも意外にたいへんで、So-netもがんばってくれたけど、コンテンツをWindowsでもMacでもUNIXでもLinuxでも同じように見れるようにするのに、かなりお金がかかった。でも、オペラシティの展覧会に束芋ちゃんが出展した作品は、僕らといっしょにつくったわけで、ああいうのはよかったと思う。外注に出したら、1500万とか2000万とかすぐにかかっちゃうでしょ」

 

「メディアもあまり取り上げてくれなかったしね。ひどいと思ったのは『BT』の『アートを知るBOOK&WEBガイド』っていう特集に、IMAが載ってなかったこと。原稿書いてるのに(笑)」

 

都築響一 | REALTOKYO

「ウェブのいいのはデータが残るという点。DVDにするっていう手もあるけど、それは別の仕事になるから……。今日もレンタルサーバーについていろいろ解説してもらって、自分でEコマースやろうっていうオバチャンくらいには詳しくなったね(笑)。7月末にSo-netは閉じちゃって、その後1カ月くらい空いちゃうかもしれないけど、とにかく再開します。とりあえず無料にするか、前と同じようにお金を取るかも検討して」

 

都築の言い分はわかるが、自助努力が少しばかり足りなかったのではないかという気がしなくもない。料金の再考、PR、ウェブならではのコンテンツやインターフェースの模索など、まだまだできることはあった(ある)ように思う。とはいえ、IMA自体を何とか存続させるという強い意志は買いたい。「So-netではエロ厳禁だったけど、これからはエログロ系もOK」だそうだから、むしろ本領発揮、禍転じて福、となるかもしれない。エロは売れるからねー。

 

最後に『BT』編集部にひとこと。上述の特集で、RTを取り上げて下さってありがとうございました。新生IMAがスタートしたら、今度は応援してあげて下さいね(笑)。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。