

世界文化社から『Kateigaho International Edition(家庭画報国際版)』プレ創刊号が発行された。フルカラーで英文が主の「Japan’s Arts & Culture Magazine」(メイン記事の日本語サマリーつき)。正式創刊は2003年10月で、以後年に4回、つまり季刊ペースで刊行されるとのことだ。アートディレクターは矢萩喜従郎。
『家庭画報』といえば日本を代表するビジュアル女性誌だが、日本語版は「ハイソな主婦向き」というイメージがある。ファッション、旅、料理など、どれをとってもよい意味で保守的・伝統的であり、エレガントでオーセンティックな内容を、質の高い写真とデザインとで提供している。国際版は少し印象が違う。「エレガントで」「質の高い写真とデザイン」というのは同じだが、内容的にはもう少し現代的なものに踏み込んでいる。
たとえばプレ創刊号には、裏原宿のショップや洋書店の写真が掲載されている。ファッションデザイナー滝沢直巳と荒川眞一郎のインタビューがある。ロボット「ポージー」と、ポージーをデザインした松井龍哉の紹介もある。それらのアップトゥデートな記事を囲むように、千宗室(茶道裏千家16代家元)、梅若六郎(能楽師)、貴乃花(大相撲年寄り)のミニインタビューや、染織家・志村ふくみの文章の抜粋、内藤忠行が撮影した竜安寺石庭の写真、書家・篠田桃紅の「墨の仕事」、カタログ「とっておきのお寿司屋さん25軒」など「伝統的」な記事が並んでいる。

意地悪な言い方をすれば「古今東西・日本文化のええとこ取り」ということになるかもしれない。だが逆に言えば、ここにこそ現代日本文化の特質がある。正確には「特質の一断面」だろうが、限られた紙幅の中では悪くないバランスだ。さらに言えば、あえて外の視点(外国人の視点)に立ってこの国の現状を眺めることは、文化相対主義の観点から言って、日本人にとっても悪いことではない。外国の「ハイソな主婦」に専有させるにはもったいない刊行物だと思う。いや、『国際版』に限っては、決して「ハイソな主婦」向きの編集ではない。
強いて言えば「Arts & Culture」欄があまりに正統的だ。中川幸夫(アーティスト)、サム・フランシス(アーティスト)、蔡國強(アーティスト)、森稔(森ビル社長)、大蔵正之助(和太鼓奏者)、小津安二郎(映画監督)……というラインナップには、少なくとも「ストリート感」はまったく感じられない。アートで言えば美術館シーンが主で、ギャラリーで活動するアーティストは取り上げられないのだろうか。小津は生誕百年だから特集してもいいとしても、黒沢清、青山真治、三池崇史ら、現役の映画作家の活動は? 青山や麻布のクラブシーン情報は?

とはいえこれは、無い物ねだりというものだろう。裏原宿の紹介記事を載せるくらいが限界で、『家庭画報』はストリートを扱う雑誌ではないからだ。メインストリームを『家庭画報国際版』で、そこからこぼれ落ちたものを含む、リアルでリアルタイムな文化情報を『REALTOKYO』で、という役割分担はいかが? いささか手前味噌な提案だけれど、ともあれ日本から世界に発信する文化情報がほとんどない中での、また出版界に逆風が吹く中での、世界文化社の勇断に敬意を表する。ちなみに『家庭画報国際版』のウェブサイトには、RTがアートや音楽の情報を提供しています(英文のみ)。RTと同じく毎日更新。よかったら一度チェックしてみて下さい。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。