COLUMN

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Out of Tokyo

059:この戦争、これからの戦争
小崎哲哉
Date: March 27, 2003

ONWARプロジェクトへの参加サイトが増えている。プロジェクトは仏紙リベラシオンで記事になりもした。そんなさなかの3月20日、開戦。ニュースを聞いて徒労感を覚えたけれど、そうとばかり言ってはいられない。RTが守備範囲とするような東京のカルチャーシーンで、積極的に反戦的な、あるいは「戦争について考える」ようなイベントが行われている。先週行われたもののうち、僕が知り得たいくつかを紹介したい。

 

FINAL HOME | REALTOKYO

まずは18日から24日まで、表参道のスパイラルで開かれた『The Exhibition of the Proposal Work』。ブランド「FINAL HOME」を展開するファッションデザイナー、津村耕佑の個展だ。都市におけるサバイバル、リサイクルをテーマとした「FINAL HOME」はそれ自体刺激的だが、今回津村はマシンガン、ヘルメット、手榴弾を愛らしいニットでくるんだ作品を制作・展示した。ベトナム戦争の折りに「フラワーチルドレン」が、デモの警備に当たる州兵の銃身に花を挿した「故事」を想い出す。

 

次に、21日の反戦デモ。東京ではこの日、アーティストや美術関係者が多数デモに参加した。ひとつはアーティストの堀浩哉と沖啓介が呼びかけた「反戦・アートネットワーク」。もうひとつは美術評論家の椹木野衣が発起人となった「殺すな」。顔見知りが多かっただろうから、たぶんふたつのグループは(他のグループとも一緒に)混ざり合ったんじゃないかと思う。「多分」「思う」というのは、僕は所用があって参加できなかったからだ。非常に残念だが、デモは大いに盛り上がったらしい。ゴージャ ラスの松陰浩之が楽器を演奏しながら暴れ回ったとも聞く。「殺すな!」というシュプレヒコールが、時折「殺せ!」に変わったという未確認情報もあるが、それはそれでアーティストらしい。いや、単に不謹慎か(笑)。

 

国連少年 | REALTOKYO

そして23日に始まった椿昇の『国連少年』(水戸芸術館)。詳しくはアート「Picks」、あるいは近々掲載する椿自身による「Tokyo, 4 Weeks」をお読みいただきたいが、国連の名の下に「戦争本能」とでもいうようなマッチョな幻想をあぶり出した奇展である。個人的には米軍放出品を使ってつくられた、秘密基地のようなインスタレーションが気に入った。カーキ色の古いキャンバス地はカビくさい匂いを放っていて、仮想現実のようなテレビ報道では絶対にわからない「リアルな戦争」を、ほんのわずかだが想像させてくれた。

 

この戦争の動機はさまざまであることが報じられている。「悪」を叩きつぶすこと、石油利権、中東や世界覇権をめぐる駆け引き、国内の選挙対策、宗教の違い……。それらを総称すれば、ポスト冷戦構造時代の「帝国の野望」となるだろう。いずれも真実だろうが、米国やその支持国だけが悪者ではない。査察継続を主張し、開戦に反対した仏独露中らにしたところで、きれいごとの裏に国家としての本音がちらつく。

 

ここで本質的な問題は、もちろん「この戦争」で無辜の人々が多数殺されるということだが、これもそれだけでは済まない。港千尋が「もっとも富める国は、今後次々に最も貧しい国に対して戦争を仕掛けてゆくだろう」と世界が「永久戦争の時代」に入ったことを喝破しているとおり(『先見日記』)、「帝国」は「この戦争」だけでなく「これからの戦争」も視野に入れているのだ。次はシリアか北朝鮮か……。

 

そして「帝国」の指導者とその追随者たちは、自らの行為を「帝国」の正史に正当化して記すべく、誰もが嘘とわかる嘘を付きつづけている。すると第三の問題が生じる。いうまでもなく倫理的な頽廃だ。フラワーチルドレンが「30代以上を信じなかった」ように、子供たちはもう大人を信じない。デカダンなシニシズムが世界を包みはじめている。

 

アーティストはその成り行きを看過しない。資本と武器という強力な敵に、知性とユーモアとで対抗する。東京では津村が、堀や沖が、椿が、そしてここに名前を挙げきれなかった多くのアーティストがその流れに参加している。彼らの努力が実を結ぶかどうかはわからないが、主体性がないと各国から揶揄されるこの国において、しかしそれでも声を上げ続ける表現者がいることを、和英バイリンガルであるこの媒体できちんと記しておきたい。小泉純一郎や川口順子だけが日本人ではない。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。