COLUMN

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Out of Tokyo

057:場所の力 V
小崎哲哉
Date: February 27, 2003

「戦争について考える」プロジェクトへの参加希望を表明するサイトが増えている。「WASP(セールスプロモーションとしての戦争)」への問い合わせも、国内外から多数寄せられている。遅きに失した感もなくはないけれど、戦争回避の可能性がわずかとはいえ残っている以上は力を尽くしたい。両プロジェクトへの参加、取材等、よろしくお願いします。

 

増田屋ビル | REALTOKYO
増田屋ビル(撮影:すべて奥一富)

さて今回は戦争の話題から離れ、「場所の力・京都編」をお届けしたい。

 

京都、五条堀川。モダンな石造りの5階建て(+ロフト)。増田屋ビルを最初に訪ねたのは昨年秋のことだった。「面白い場所がある」というREALOSAKAのスタッフに連れていってもらったのだ。まず向かったのは2階に入っているギャラリーアンテナ。コンテンポラリーアートを展示する一方、ワークショップやコンサートを積極的に開催し、また作家の本やファッショングッズを販売するなど京都アート界ではよく知られた存在だ。運営者の奥一富さんにビルの来歴について伺った。

 

「1960年に間組(現・ハザマ)が建てた、京都で初めてのマンションです。間組のダム造りの技術が生かされ、基礎をはじめ、非常にがっしりした構造だとか。当初は賃貸の住居ばかりだったのが、途中から風呂などを取り除き事務所として貸すようにもなったそうです。大家さんが知り合いにしか貸さないという方針なので、知り合いつながりで現在に至っています」

 

ギャラリーアンテナ | REALTOKYO
ギャラリーアンテナ

「僕が入ったのは3年前ですが、当時はグラフィックデザイナーの事務所ばかりでした。今アンテナが入っている部屋は、日本で初めてソラリゼーション写真を撮った小西祐典さんが使っていました。宝塚の有名な女優さんが5階に住んでいたとも聞きましたが、大家さんに尋ねてもかたくなに口を割りません(笑)」

 

「今では、大家さんをはじめいくつかの家族が住んでいるほか、ウェブデザイナーや写真家や建築家の事務所、ベトナム雑貨の店、カフェ、古本屋などが入っています。面白い人がたくさん集まってくるし、つかずはなれずの良いコミュニケーションが成立して自由な雰囲気ですが、縦軸となる階段を中心に部屋が放射状にプランされていることが一役買っているのかもしれません」

 

続いて5階にある古本屋「書肆・砂の書」に上がった。ちょうど内装工事中だったが、なんと店主は音楽家でもある寺井昌輝さんだった!(Out of Tokyo 043 参照)共同運営にあたるのは、フリー編集者で元『エルマガジン』編集長の沢田眉香子さん。段ボールから出されたばかりの本を見ると、マニアにはたまらないラインナップである。書き出すときりがないから、どういう品揃えかはウェブサイトを見てほしい。「砂の書」はオンライン販売を中心にしているのだ。以下、寺井さんのお話。

 

「あちこちの書店で働いてきましたが、いろいろ思うところもあって自分で始めました。ご縁あって増田屋ビルに入れてうれしく思っています。ゆくゆくは同じビルの中の人たちと協力して、サロンのような交流会を開くのも面白そうですね」

 

「お察しの通り、店名はボルヘスの『砂の本』から採ったものです。ページを繰るごとに砂がこぼれる無限ページの本、というイメージが好きなんです。本の選択基準は、まったくもって個人的なもの。サイトをご覧いただければおわかりになるように、神秘主義や批評にマイナー文芸作品、それによくわからないCDなど妙なものばかりを集めています」

 

匣(HACO) | REALTOKYO
「オープンオフィス」にしてショップの「匣(HACO)」

街の大きさがちょうどいいからだろうか、あるいは学生や芸術家を大切にする気風からか、京都の文化的コミュニティは東京よりも凝縮され、いわゆる「顔が見える距離」の中で活発に活動している印象がある。馬場正尊さんが「東京編集長日記」でレポートしている日本橋・東日本橋などのエリアや、僕が前号に書いたツキヂマンソンのようなグループにとって、京都の先行事例はとても役立つような気がする。「カルチャー」を核にした地域のアクティビティの活性化。お時間がある向きは、ぜひ一度お運びください。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。