COLUMN

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Out of Tokyo

055:場所の力 IV
小崎哲哉
Date: January 30, 2003
TAPING | REALTOKYO
東泉氏(左)と伊藤氏によるテーピング

先週末にうれしい驚きがあった。デザイナーの東泉一郎さんからのメールに誘われるまま、『TAPING』なるイベントのオープニングに行ったのである。イラストレーターの伊藤桂司さん、デザイナー・ユニットの生意気も参加するというから面白いに決まっているとは思っていたけれど、内容もさることながら会場が素晴らしかったのに感嘆した。場所は東神田のオルタナティブ・スペース「ツキヂマンソン」。秋葉原から歩いて7〜8分ほどの、やや不便な場所にある。いや不便というよりも、いわゆる「都心空洞化」の典型的地域と言うほうが正確だろう。オープニングは夜だったが、昼間訪れたら街の活気のなさがいやでも感じられたに違いない。

 

ツキヂマンソンは不思議な建物だった。木造二階建てで天井は低く、増改築が重ねられたようだがあまり普請がよいようには見えない(失礼!)。「壊して、創って、また壊す」をモットーとしているという同名のクリエイター集団「ツキヂマンソン」代表のひとり、保坂真一さんに聞いてみたら、実に面白い由来を話してくれた。

 

「この建物はもともと日本旅館だったんですが、それをある繊維関係の会社が買い上げて改造し、オフィスとして使っていたんです。ところが老朽化が進み、解体されることが決まったという話をお酒の席でオーナーの方から伺いました。そこで『どうせ壊すんなら、それまでの間タダで使わせてくれ』と頼み込んだところ、快諾していただいたんです」

 

TAPING | REALTOKYO
保坂氏率いるツキヂマンソン・チームの「コンテナ」を用いた展示

ということで建物を、正確に言えば建物の使用権をゲット。家賃は無料。「酒の席で」というのも冗談のようだが、うまい話というのは転がっているものである。冗談といえば「ツキヂマンソン」というネーミングはもちろんヒョウタンならぬ冗談から出た駒。保坂さんたちのグループはそもそも築地のマンションに本拠地を置いていて、それを誰かが「築地のマンソン」と言い間違えたのを、面白いからそのまま使っているそうだ。

 

その取り壊し寸前だった建物を、マーチャンダイザー、建築家、インテリアデザイナーらからなるツキヂマンソンのメンバーが、手弁当で改装した。『TAPING』に加わった3組の人気クリエイターも、心意気に応じて無料でイベントをつくりあげた。アーティストによる「合法的スクォッティング」と言ったら言いすぎかもしれないが、それにしてもこのようなケースはあまり都心では見られない。強いて言えば、1980年代にアーティストや映像作家が住み着いていた「茅場町くるくる」くらいだろうか。

 

TAPING | REALTOKYO
オープニングには業界関係者多数が訪れた

解体はこの3月末に予定されているが、保坂さんによれば、「場所が有名になって、オーナーが(建物の使用についての)価値を認めてくれれば、もっと長く使える可能性がある」とのこと。なくなってしまってはもったいないから、やる気のあるクリエイターは企画を持ち込んでみたらどうだろう。保坂さんのメールアドレスは<hosarock@par.odn.ne.jp>である。

 

馬場正尊さんが『東京編集長日記』で書いているように、最悪の不況下、都心の空きビルは増加している。家主は更地にして土地を売り払うことを夢見ているのだろうが、それは簡単ではないだろうし、何よりもそれでは歴史的な建造物を安易に取り壊すことになり、「都市のリサイクル」という実に現代的かつ現実的なテーマから離れてしまう。今年、政府は「ビジット・ジャパン・キャンペーン」とやらを行うそうだが、アーティストによる元百貨店のスクォッティングが多数の観光客を呼び込んだベルリンの例もある。観光立国を目指すなら、空洞化地域の「合法的スクォッティング」を支援するのも一案ではないだろうか。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。