COLUMN

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Out of Tokyo

053:無料日刊紙の未来
小崎哲哉
Date: December 26, 2002
Tokyo Headline | REALTOKYO

7月に創刊された無料日刊紙『Headline Today』が、11月25日から『Tokyo Headline』と改名し、タブロイド版28ページ、オールカラーの週刊新聞に生まれ変わった。「日本唯一の無料日刊新聞」を標榜したにもかかわらず、4カ月あまりで週刊化を余儀なくされたことになる。

 

既存の日刊紙業界が、『Headline Today』に対して有形無形の圧力をかけたためではないかという見方が既に報じられている(『サイゾー』2002年11月号、2002年12月7日付『NKSUCKS』など)。「圧力」がなかったにせよ、例えばキヨスクなどが、大手日刊紙に対する配慮から販売を見送った可能性は大いにあると想像される。事実『Headline Today』も『Tokyo Headline』もJRや地下鉄の駅構内には置かれず、駅周辺の店舗などにラックを設置している。

 

東京における日刊新聞は1990年に刊行された"女性向け夕刊紙"『東京レディコング』 があり、また週刊新聞では2001年夏に朝日新聞社から刊行された『7 Seven』が記憶 に新しい。鳴り物入りの創刊だったが、いずれも数カ月で廃刊。後者はスターバックスやTSUTAYAで販売されたことも話題となった。

 

そうした悪状況下、そして最悪の不況という逆風下に、あえて創刊に踏み切ったヘッドライン社の勇気は褒め称えてもいいだろう。さらに、我に利あらずやと見るや、すぐに週刊化に踏み切ったあたりも面子にこだわらないフットワークが垣間見えて好感度が高い。とはいえ、公称35万部にしては紙面はあまり魅力的に思えない。問題は編集方針にあると僕は思う。

 

Tokyo Headline | REALTOKYO

同紙関係者によれば、週刊化以降のメインターゲットは「28歳、女性」だそうだが、ベッカムを表紙に配した第1号はまだしも、それ以降の記事内容は特に女性向けであるようには見えない。また、同紙のサイトに「政治的には中立」とあるが、そんなことは絶対に無理である。自社記事が一切なかったとしても、どんな記事を選ぶかで自ずと政治的スタンスは明らかになってしまう(同紙が範としているスウェーデン生まれの『Metro』紙にだって政治的主張はある)。むしろ政治的旗幟を鮮明にするほうが読者はついてくるのではないか。

 

Headline Today | REALTOKYO

付け加えれば『Headline Today』は時事通信社からの配信を拒否され、それがためにロイターやブルームバーグなど外国通信社の記事が多くを占めている。しかしこれは、逆手に取れば有力な武器になるのではないか。このコラムで以前に述べたように(Out of Tokyo 001ほか)、日本のマスコミは新聞・テレビを問わず、海外ニュースが極めて脆弱である。フランスの『Courrier International』のような週刊新聞に倣い、"海外ニュース中心"を謳うことにより、良質で都会的な読者が囲い込める。そうすれば、広告主にとっても関心の高い新市場が開けるのではないだろうか。

 

『Courrier International』は数年前に、日本の某出版社と提携の話があったが流れてしまったということだ。この国の報道事情を見るにつけ、実にもったいない話だったと思うけれど、『Tokyo Headline』が代わりを務めてくれれば非常にありがたい。どの分野でもいまや、サンプリングとリミックスが当たり前の表現技術として認められているのだから、報道だって独自取材にこだわる必要はない。海外通信社の情報を見識あるセンスで選び取り、われわれ読者に提示してほしい。それこそが現代の「編集」というものである。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。