COLUMN

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Out of Tokyo

050:場所の力 II
小崎哲哉
Date: November 14, 2002
ホテル「T'POINT」 | REALTOKYO
ホテル「T'POINT」

先週末は関西出張で、大阪と京都を訪れた。そのために、絶対に観るつもりだった『アーティスト・イン・空き家2002』(京島プロジェクト)は涙を呑んであきらめた。 今でも悔しいけれど、悔しがってばかりいても仕方がない。その代わりに、関西で体験した面白いアート展について報告したい。厳密に言うと、それが行われた場所についてだ。

 

会場は大阪・心斎橋近くのデザインホテル「T'POINT」。題して『stay with art 〜窓辺の緑〜』展。昨年に続く2度目のプロジェクトで、ホテルの客室を用い、絵画、写真、インスタレーション等々の作品を展示するというものだ。昨年は、女性がベッドの下で着替えを行うという木村友紀の映像作品が話題となったそうだが、今年は3グループ+8人のアーティストが出展した。中では澤田知子と藤本由紀夫のインスタレーションが面白かった。

 

澤田知子「OMIAI」 | REALTOKYO
澤田知子「OMIAI」

澤田作品はおなじみの「OMIAI」シリーズだった。二部屋に分かれていて、片方の部屋には、和装・洋装を問わずさまざまな衣装で着飾った澤田の「お見合い写真」の束と、同じ写真のデジタルファイルを収めたマッキントッシュがある。観客はそこで「人気投票」を行い、その後、「私自身の部屋」(澤田談)に移動するという仕掛けだ。作品タイトルは『Madonna』。制作期間中にダイエットして20kgも痩せたという作家自身の変貌ぶりも注目に値するが、何よりも部屋に漂うほのかに官能的な雰囲気がよかった。

 

藤本由紀夫「Room」 | REALTOKYO
藤本由紀夫「Room」

サウンドインスタレーションで知られる藤本の作品は、数台のシンセサイザーの鍵盤を紐で縛り、部屋中を途切れることのない音で満たすというものだった。シンセサイザーはベッドの上やバスタブの中にも置かれていて、それぞれの楽器のハーモニーが重なり合い、不思議な不協和音を生み出していた。メロディとリズムがなく、音色と音量とハーモニーだけで成立している音楽。聴いているうちにゆっくりと、だが確実に時間軸が混乱してきて、それが奇妙に快かった。

 

どちらの作品も、ほかの場所でも成立するだろうが、ホテルの客室という場所を得て、格段に意味や暗喩や含意が補強されていたと思う。そもそもホテルの客室とは、きわめてパーソナルな場所であり、いうまでもなく性的なコノテーションも含まれている(実際、バスルームで何かの装置をセットしている女性スタッフの生足が目に入り、僕はひそかにエロティックな気分を覚えたりした)。客室はヒッチコックの『裏窓』や、都築響一の『TOKYO STYLE』にも通じるような、覗き見することの欲望を巧妙にかき立てる装置なのだ。

 

たった2日間という開催期間も、うまく機能していた。もちろんホテルの営業に支障がないように、という配慮からのものだろうが、期間が限定されているということで、ますます欲望がそそられる。普段はなかなか見られない客室の内部を一挙に見られるということも、アート作品自体とは関係ないが、「お値打ち感」を高めている。

 

僕が観ることがかなわなかった京島のプロジェクトも、場所の力を非常にうまく使ったものなのだと思う。ホテルと空き家とでは商業的/非商業的という違いがあるが、今回の(大阪の)展覧会の場合、空き家とは違って、ホテル側にも客室内部を一般にプレゼンテーションできるという明示的なメリットがあるのではないか。東京のホテルで、いや、世界中のホテルで、このような企画が持ち上がると面白いと思った。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。