
2日間のREALTOKYO MARKET、2回のREALTOKYO BAR、それに『インターネットマガジン』に連載している対談の公開トークもあって、先週1週間は「怒濤の」と形容したいくらい忙しかった。僕は話すだけで大したことなかったけれど、現場のスタッフは本当にたいへんだった。お疲れさま!
でも、ゆっくり休んでる場合じゃない。来週末(10月11日金曜日)にはRT BAR vol.5「One Year After:1年目の10・8を世界のメディアはどのように報じたか」を開催するし、今週からはまた新しい企画を始める。題して「僕が/私が訳したいこ んな本」。まだ翻訳されていない本を気鋭の翻訳家や翻訳家志望者に紹介・解説してもらい、気に入った出版社があれば企画ごと買い上げてもらおうというものだ。断っておくが、RT は一銭も取らない。版元と翻訳家に直接交渉してもらい、質の高い、だがこれまでは注目されていなかった未訳出版物を世に出していこうというのが趣旨である。
通常、翻訳出版は次のようなプロセスで行われる。
(1)海外で開催されるブックフェアにおいて、あるいは直接的な折衝によって、原書の版元から外国の翻訳出版エージェントに情報が流れる。
(2)翻訳出版エージェントが自国の出版社(単数の場合も複数の場合もある)に話を持ち込む。
(3)出版社は翻訳家にゲラを読ませてレジュメをつくらせ、一方、金銭的な条件を自社内で検討する。
(4)条件面で折り合いが付けば売買が成立する。
(5)エージェントはコミッションを受け取り、出版社は翻訳・編集・出版作業を進める。
海外の出版物を日本で翻訳出版するのもその逆も、だいたい同じような流れだ。

もちろんこの流れに問題があるわけではないが、どんな本を市場に出すかについて、ほとんどプロの手に集中していることと、スピードがこのIT時代に見合って早くなっていないことが少々うっとうしい。いや、もちろん出版社の翻訳担当もエージェントも、情報はインターネットから手に入れてはいる。だがそれはあくまでもプロ同士の情報交換で、アマチュアが介在する余地はほとんどない。それに、当事者は誰もが利益最優先だから、プライオリティは良書ではなくブロックバスター的に売れる本の側にあり、インディーズの出版物など見向きもされないことが多い。その流れに一石を投じたいと思うのだ。
良書の翻訳を出すこと以外にも狙いがある。海外の、とりわけRT の読者と共通する感性の愛書家にどんな本が注目されているか、本を選び出すだけでもニュース的な価値があるのではないか。ベストセラーリストはときどき見るけれど、サブカルチャー関連の本についての情報はまったくといってよいほどない。それが提供できれば、RT 創刊の目的のひとつ、「国境を越え、距離を超えて同じ話題を(海外と)共有すること」(Out of Tokyo 001)が一歩前進できる。

いうまでもないが、この企画は一方通行ではない。日本語版RT では「海外出版物を日本語に翻訳する」という流れになるが、英語版では「日本の出版物を外国語に翻訳する」という流れになる。村上春樹や吉本ばなならが各国語に翻訳されているとはいえ、まだまだ翻訳されていない日本の良書も多い。相互交流でなければ意味がないのだ。
というわけで、外国語→日本語、日本語→外国語を問わず、またプロとアマも問わない。我こそは、と思われる方は、臆せずに手を挙げていただきたい。皆さん、よろしくね。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。