COLUMN

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Out of Tokyo

042:ファッションショー革命?
小崎哲哉
Date: July 25, 2002

すでにお気づきかもしれないが、RTには「FASHION」というジャンルがあるものの、情報がほとんど載っていない。理由は単純で、ファッションショーは多くの場合、ブランドの顧客が対象であり、一般公開されるものは稀だからだ。招待状を持っていない限り入れないイベントを、普通の読者を対象に紹介しても意味がない。最近ではクローズドではないファッションショーも散見されるが(たとえば昨年、恵比寿ガーデンプレースで行われたシャネルの巨大イベント)、まだまだ一般的であるとはいいがたい。

 

Theatre PRODUCTSのショー | REALTOKYO
Theatre PRODUCTSのショー

でも先週末に、Rice Gallery by G2で行われたTheatre PRODUCTSによる「会社説明会」は画期的だった。Theatre PRODUCTSはアパレルメーカーでありながら、自らを「劇団」と称し、「洋服をとりまく全てを演出」すると宣言している(同社ウェブサイトより)。「会社説明会」では、遊牧民のパオ(テント)に見立てたインスタレーションに洋服が展示され(というか貼りつけられ)、チャンチキトルネエドによるファンキーな演奏をバックに、モデルたちが新作を身にまとってキャットウォークを披露した。Rice Gallery by G2は、この秋以降に取り壊されるという石造りの佐賀町食糧ビル(1927年竣工)内にあり、そこそこの広さはあるのだが観客はあふれんばかり。サウナ風呂のように暑い会場内は、文字通り熱気に蒸せ返っていた。


Theatre PRODUCTSによるインスタレーション | REALTOKYO
Theatre PRODUCTSによるインスタレーション

アートや音楽や演劇やダンス、場合によってはさらに料理などを組み合わせたイベントは最近よく目にする。けれども洋服を中核におき、それを有料一般公開する形で発表するイベントは珍しいのではないか。Theatre PRODUCTSのコアメンバー、金森香も「初めての試み」と語っていた。明るく楽しく若々しく、とても刺激的な一夜だったと思う。ちょっと暑苦しすぎて、ビールが飲みたくなって困ったけどね。


ニブロール・アバウト・ストリート '02S/S | REALTOKYO ニブロール・アバウト・ストリート '02S/S | REALTOKYO
ニブロール・アバウト・ストリート '02 S/S

以前にこのコラム(032)でいささか苦言を呈したニブロールも、ヤナイハラミツシがデザインした服を、「Nibroll about street」として制作・発表している。6月中旬には麻布にある小さなバーで、映像+音楽+絵画+洋服少々+ダンス少々というイベントを開いた。このときは会場の規模とイベントの内容が合っていたのか、大きなステージで観るのとはまた違った印象で、かなり好感を抱いた。これ以外にヤナイハラの服飾展示を観たことはないが、Theatre PRODUCTSとは違った形で、趣向を凝らしたファッションショーを見せてくれるのではないかと期待している。Theatre PRODUCTSやニブロール以外にも、既存のアパレルメーカーとは違った方向に進むデザイナー集団があるはずだ。そしてそれは、これまでのファッションショーとは違う新しいショーの形を生み出してくれるだろう。大げさにいえば革命的な事態となるかもしれない。

 

オートクチュールからプレタポルテを経て、最終的にストリートファッションまで進んできたファッションの歴史が、この先どんな道筋を辿ってゆくのかはわからない。でも、ファッションショーの形態は、そろそろ変わってもいい頃合いではないだろうか。ハイソな人たち御用達のショーが残っていても別段かまわないけれど、それこそRTの「FASHION」コーナーが、一般向客にもオープンな情報で溢れ返るほどに「革命」が進んでゆけば楽しいと思う。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。