
アサヒビールが特別協賛する「アーティストのライブパフォーマンスとドリンク&ディナーバイキング」のイベント、『アートノヴァ Vol.9』に出かけてみた。RTの連載「刃渡り35センチ」(休載中)でもおなじみのマルガリータがコーディネーター。『アートノヴァ』初のドラァグクイーンナイトである。

マルガリータのほか、ホッシー、オナン・スペルマーメイド、バビエノビッチ バビ江、ナジャ・グランディーヴァが出演し、和風スローフードが供され、イベントは大いに盛り上がった。ちなみに会場は、浅草は隅田川沿い、フィリップ・スタルク設計のアサヒスーパードライホールにある「AsahiスクエアA」である。司会のマルガリータが「ドラァグのショー、初めての人は?」と訊いたら3分の1近くが手を挙げたのには驚いたが、まあ、そんなものかもしれない。
ショーは(ちょっとオシたけれど)7時に始まり、9時半には終わった。帰宅時間に配慮してのことだろうが、麻布や新宿二丁目のクラブでやるともう少し遅い。二丁目だと、やはり終電に間に合うように11時とか11時半に終わることもある一方、店自体は始発組のために朝まで延々と開いていたりする。麻布や六本木でも、まあ同様だ。

この終電問題は頭が痛い、とずーっと思っていたところに、4月27日、渋谷はスペイン坂の入口に「La Fabrique」がオープンした。パリのバスティーユにある人気DJレストランの東京店で、年中無休、朝5時まで。オープニングのビデオ・プロジェクションは映像キュレーターのイザベル・デュピュイがプロデュースし、プレオープニングのシャネル主催イベントではテイトウワらがDJを務めた。パリ店と違って面積が狭い分だけ天井が高く、内装は子供向きのクラブとは一線を画している。オープニング記念期間の5月5日までは、気合いの入ったラインナップが並ぶ(タウンPicks参照)。
「La Fabrique」が新しい名所になるかどうかは、そのあとの展開にかかっているだろう。クラブの栄枯盛衰は、もちろんDJ、VJのセレクション、すなわちパーティ自体の面白さにかかっている。あえて「子供の街」渋谷のど真ん中に「大人向き」の店をつくった以上は、中身こそがすべてだ。「La Fabrique」は昼間(11時)から営業していて、もちろんカフェ、レストラン、バーの側面も持っているから、ほかのクラブと一概には並べられないが、情報発信も含め、東京クラブカルチャーの要となるくらいの覚悟と気概がなければ、如何にパリで成功しているとはいえ、安穏としてはいられない。

それにしても問題は終電である。「La Fabrique」の場合、DJタイムは午後10時から。時間を気にしていたら、盛り上がる前に店を後にしなければならない。かといって、もう若くはない「大人」が始発が走り出す時間まで店に居続けるのは辛いんじゃないか。石原都知事が「終夜バス運転を前向きに考えたい」と発言したのは昨年の6月だが、その後続報は聞こえてこない。コストや騒音、排ガス問題等があって、マンハッタンのように地下鉄を終夜運転するのはすぐにはむずかしいかもしれないけれど、内需拡大のためにも、東京を大人が気持ちよく遊べる街にするためにも、公共交通機関の終夜運転はぜひ検討してもらいたい。自治体の方々、よろしく。公務員の中にも夜遊びが好きな人っているでしょ。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。