COLUMN

outoftokyo
outoftokyo

Out of Tokyo

034:森ビルへの期待
小崎哲哉
Date: April 04, 2002

過日、森ビルが主催する『知のライブハウス』なるイベントを見物した。『知のライブハウス』は、森ビルが1988年に始めた生涯教育機関「アーク都市塾」の第27期卒塾式を兼ねたイベントである。96年には「アーク都市塾」を核に、“「知」と「学習」のフリーマーケット”を目指すという教育・研究機関「アカデミーヒルズ」が誕生。理事や評議委員やプログラムコミッティには、東大、慶應、早稲田などの有名教授や、建築家、都市計画家、デザイナーなど錚々たる面々が名を連ねている。

 

知のライブハウス | REALTOKYO
『知のライブハウス』
(森ビル株式会社提供/以下同様)

イベントが行われたのは愛宕山にあるMORIタワーの29階ほぼ全フロア。アカデミーヒルズ新体制のお披露目をも兼ねていただけに、1000人近い人々が集まり、なかなか賑やかで華やかなものだった。卒塾式を除くと、メインとなる催し物は、同じ会場内で同時に進行する5つのトークセッション。パーティー会場の中に複数のトーク空間が共存しているという、不思議といえば不思議、最近の流行りらしいといえば流行りらしい、「知的なお祭り」ではあった。

 

僕が聞いたのは「都市再生への挑戦〜世界都市東京を実現するグランドデザインと都市政策」というセッションだった。オーナー・ファウンダーの森稔社長も出席していて、ただでさえ森ビルの都市づくりプロジェクトに関心を持つ僕としては(コラム023参照)、大きな期待を持って臨んだ。もちろん1時間半強という限られた時間の中で、11人ものパネラーが並んでいるという設定には無理がある。それでも、勇ましいタイトルからして、東京の近未来に関するヒントになる一言でも聞ければと思ったのだ。

 

六本木ヒルズのメインタワー | REALTOKYO
森アートミュージアムが入る六本木ヒルズのメインタワー

しかし、どうやら参加するセッションを間違えたらしい。トークの途中で質問コーナーがあったので「都市再生のためにはハード/インフラと並んでソフト/情報が重要な要素だと思うが、インターネットを利用したネットワークづくりなど、開かれたコミュニケーションについてビジョンはあるのか」と聞いてみたが、ビールやワインをきこしめした先生方に見事に無視された。某男性パネラーに至っては「六本木ヒルズを、ハゲとデブのオヤジが若い女の子と堂々と不倫ができる街にしたい」というあまりにも正直なセクハラ発言で、会場にさーっと冷たい空気を流して下さった(トホホ)。

 

それはともかく森ビルは、「森ビルテナントのためのコンシェルジュサービス」を名乗る『イーヒルズクラブ』という会員制の情報サイトや、東京の中心部を「地図」という切り口で鮮やかに考察するサイト『Mid-Tokyo Maps』を制作している。前者はクローズドだから未見だが、後者はインパク通年賞審査委員特別賞を受賞した力作で、フラッシュをフルに使い、よく考え抜かれたインターフェースと相まって、東京の過去・現在・未来を考える大きなヒントを与えてくれる。また、来年完成する六本木ヒルズには、MoMAと提携する森アートミュージアム、シネマコンプレックスなど文化施設が併設される。

 

Mid-Tokyo Maps | REALTOKYO
『Mid-Tokyo Maps』トップページ

つまり森ビルは、ハードだけでなくソフトも街づくりには欠かせないと判断し、実際にソフトづくりを行おうとしているのだ。この構想・思想は文句なしにすばらしい。だが、外に開かれたネットワークづくりについてはどうか。「森ビル以外」の東京について、「都市再生」について、「グランドビジョン」ははたしてあるのか。

 

そのビジョンを聞けないままセッションは終わってしまった。ほかに「日本の文化戦略を語る」とか「ライフスタイルの創造」というセッションがあったから、そっちに参加すればよかったのかもしれない。アカデミーヒルズのサイトには、慶應の村井純教授による「次世代インターネットの世界」という講義録が採録されているが一般論にとどまっている。具体的に街を創り上げてゆく企業であるからこそ、森ビルにネットワーク、つまり交通と通信についての議論と、「開かれたコミュニケーション・インフラ」の構築を期待したい。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。