COLUMN

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Out of Tokyo

033:ガイジン嫌いの家主たち
小崎哲哉
Date: March 21, 2002

「秋葉原TV」でピーター・ベラーズの『Reset』を観た。最初は家電屋の店頭で観たので音が付いていなかった。東洋人(日本人?)の女の子が不動産屋の店先を覗き、住宅情報誌を熱心に読み、どこかに電話をかけ、住宅街を歩き回る。そんな映像だった。

 

「秋葉原TV」の『Reset』より | REALTOKYO
「秋葉原TV」の『Reset』より
(以下すべて)

そのときは特別な感想を抱かなかったが、後でサウンド入りの映像を見て驚いた。彼女は自分の部屋ではなく、友人(あるいは恋人?)の外国人のために部屋を探していたのだ。サウンドトラックはほとんどが不動産屋からの留守電メッセージ。曰く「ピーターさんの部屋の件ですが、残念ながら……」「大家さんがやはり外国の方は……」「外国人の方ではちょっと、と大家さんがおっしゃって……」。要は「ガイジンには部屋は貸せない」というわけである。

 

ベラーズによれば、使用したメッセージはすべて本物だそうだ。「僕はこの街(東京)に十数年住んでるし、きちんと仕事に就いてもいる。それなのに、これはちょっとないよね」とベラーズは言う。「ちょっとないよな」と僕も思う。不動産屋がどう思っているかは知らないけれど、外国人の借り手を断る家主がそう思っていないのは確実だ。

 

「秋葉原TV」の『Reset』より | REALTOKYO

法務省の統計によれば、2000年末現在における外国人登録者数は168万6444人で、32年間連続して最高記録を更新している。また、入国者数は前年比7.6%増の527万2095人でこちらも過去最高。望むと望まざるとにかかわらず、在日・来日外国人の数は増え続けている。街をちょっと歩けばそれは誰にでもわかる。これからも増えるであろうことも予想がつく。

 

一方で21世紀に、日本の総人口が減少することもほぼ間違いないと言われている。一説によれば、2007年の1億2800万人をピークに、その後は減少に転じ、2050年には1億人、2100年には7000万人を切ると予想されている。その際に日本が採る道はふたつあるという。人口が少ないまま「経済小国」の地位に甘んじるか、外国人労働者を取り入れて「経済大国」の地位を維持するか。断っておくがこれは僕ではなく、法務省のある入国管理局長の見通しとコメントである。僕は「甘んじ」たってかまわないという意見だが、経済のことはさておき、国際交流が盛んになる時代に、外国人がこれまで以上に入国してくることは当然の趨勢だし、それでいいと思っている。

 

「秋葉原TV」の『Reset』より | REALTOKYO

でも少なからぬ数の大家さんたちはそう思っていないんだろうなあ。本人たちに聞けば「差別なんかじゃない」とか「ちょっと苦手なだけだ」とか「言葉の壁がどうも」という返事が戻って来るんだろう。だけど苦手というのは差別の裏返しの感情だし、ベラーズの日本語は十数年暮らしているだけあってほとんど完璧といっていい。この連載の15回目に書いた「カオリさん」のように、「無意識のガイジン嫌い」があるんだと思う。

 

東京都住宅局不動産業指導部指導課によれば、「業者の指導はできるが、大家さんが拒否するという意向であればどうしようもない」。また生活文化局外国人相談係によれば、「アドバイスはできるが、仲裁に入ることはない」。外交官やエリート・ビジネスマンを除くと、住まいを探す外国人の受難はまだまだ続きそうである。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。