

トレーシングペーパーが表紙となっている

Catherine Yass
Invisible City: north-west 1998 (70.5 x 63.5 x 12.5 photographic transparency, light box) courtesy of the artist
『the colour red』という本をブリティッシュ・カウンシルのジェニー・ホワイトさんからいただいた。ジェニーさんは、現在はロンドンに戻っているが、一昨年まで東京のブリティッシュ・カウンシルで文化担当だった人である。『the colour red』の「red」は日本を象徴しているそうで、それに関する含蓄ある文章についてはここでは措く。この本の目的は「英国の創造的な産業分野において製品やサービスを供給するアーティスト、アート関係者、ならびに企業のために、日本における機会についての要約を提供する」ことにあるそうで、でも、ページを繰ってみると僕らにとっても面白い本だということがわかった。
まずは序論が、バブル経済とその(アートへの)影響や余波について語るのだが、何より面白いのがそのあとに続く英国カルチャーの日本への進出の現状分析だ。広告、建築、アート、工芸、デザイン、ファッション、映画とニューメディア、ゲームやキャラクター、文学等々、それぞれは短いのだが、日英のキーパーソンの要を得たインタビューが挿入されていて実にわかりやすい。さらに「メディアの役割」「プロモーター、スポンサーと資金調達」と題する具体的な助言を伴うチャプターがあり、最後に本の半分弱を占める充実した「付録」が、カルチャー関連の諸機関、広告代理店、ギャラリー、アートスペース等の一覧表を並べている。
「年齢層別未婚者比率の推移」や「広告代理店のシェア」などのグラフもある。それに加え、ページの合間合間には『ウォレスとグルミット』の日本版ポスターや、トマトによるソニーのCIイメージが挿入され、日本市場でのビジュアル展開が、文字通り目に見える形で示される。これ1冊あれば、(僕がイギリス人だったら)安心して日本のカルチャーマーケットに飛び込んで行けそうだ。こういう本をイギリス人だけに占有させておくのはもったいない。日本の出版社が翻訳出版するといいと思うけれど、誰か手を挙げませんか。

問い合わせ先:国際交流基金アジアセンター 03-5562-3892
一方、これはコマンドN代表でアーティストの中村政人さんから教えてもらったのだが、わが国際交流基金アジアセンターが『オルタナティヴス−アジアのアートスペース』という本を出している(2001年12月刊)。こちらは副題にあるとおりの内容で、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの各国にある、オルタナティブ・アートのスペースを紹介するガイドである。住所、連絡先、アクセス、代表者名、開館時間、設立年、運営母体、施設概要、活動内容が日英バイリンガルで簡潔に記され、国別にキュレーターら専門家のコメントがつく。
もったいないのは黄色い表紙のこの本が、公的機関による出版という制約のせいか、一般の流通には乗っていないことだ。つまり、街なかの本屋さんでは買えない。アジアの、それもオルタナティブ・アートのファンがどれだけいるかはわからないが、こういう本が普通に買えるといいな、と思う。赤い本と黄色い本。どちらも書店に並んでいてほしい。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。