COLUMN

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Out of Tokyo

024:テロルの影
小崎哲哉
Date: November 19, 2001
パワー・オブ・エン | REALTOKYO
《パワー・オブ・エン》
'Power of YEN'
2001年 西村佳哲

初台のICC(インターコミュニケーション・センター)で『信用ゲーム』展を観た(12/24まで)。客員学芸員に桝山寛を迎えた本展は、これまでのICCの展示とは一風変わった、わかりやすく、かつ面白い展覧会だ。テーマは「おかね」。桝山自身の言葉にしたがえば「『おかねに換えられる価値』と『お金に換えにくい価値』の両方を、アートの文脈から問い直す試み」である。「今の世の中、『知らない』ことがいちばんいけないと思うんです。僕ら、おかねについてあまりに知らないでしょう」と桝山は言う。

 

『テレビゲーム文化論』を著した桝山らしく、デイトレーディングと資産運用のふたつのコンピューターゲームがある。「アートマーケット向けの株券を発行し、配当を与え」「金銭価値ではなく文化価値を」創造するスイスの「会社法人」etoyは、展示ブースにパチンコ台を並べた。僕がこれはと思ったのは、本物の1万円札100枚を樹脂に埋め込んだあいだだいやの作品と、1円玉を箱に入れると、電気料金1円分のライトで観客を照射してくれる西村佳哲の作品だ。後者には『Power of Yen』という心憎いタイトルが付けられているが、1円分の電気って、意外に量があるもんだと感心した。すごくまぶしい。

 

東泉一郎の『仕事スケール#GTV/M1』も面白かった。携帯電話用の自家発電ペダル(というものがあるんですね)を一所懸命に漕ぐと、スクリーンに映写された樹木やロボットや何だかわからないものが大きくなったり運動したりする。西村作品が「消費のコスト」をストレートに扱っているのだとすれば、東泉作品は「生産のコスト」と「生産の歓び(と苦しみ?)」を二重のテーマにしている。言ってみれば、現代的な労働価値説かも。

 

仕事スケール#GTV/M1 | REALTOKYO
《仕事スケール#GTV/M1》'A Work for Nothing'
2001年 東泉一郎

ただ残念だったのは、この作品が9月11日の米国テロのために、根底から作り直されたことだ。東泉と桝山によれば、当初はまったくちがう、巨大な爆弾のレプリカを観客の頭上に吊すというものだったという。情報=差異に基づく高度資本主義は、実はいつ崩壊されるかもしれない危険に常にさらされている。危険をもたらすのは不安定なシステムそのものかもしれないし、文字通り爆弾=戦争かもしれない。現代版「ダモクレスの剣」ともいうべきこの作品を、観たかったと思うのは僕だけではないだろう。ちなみに爆弾の大きさはこの世に存在する核爆弾の総重量を世界の総人口で割ったものとし、作品は『My Lovely Bomb』と名付けられる予定だったと聞く。

 

Better Living Through Chemistry : Palm Tree / $100 Bill | REALTOKYO
《Better Living Through Chemistry : Palm Tree / $100 Bill》
1995年 デヴィッド・バーン
Copyright DAVID BYRNE
Courtesy Lipanjepunting Artcontemporanea Italy

デヴィッド・バーンのライトボックス写真インスタレーションも、有名な、お札の羽を生やした拳銃の作品が含まれたシリーズから、別のシリーズの展示(一部)に変更された。ニューヨーク証券取引所が開発した『3Dトレーディング・フロア』という、市場を監視するソフトの展示も見送られたという。米国の放送局が『イマジン』ほかの曲の放送を自粛したのに比べればマシだろうけど、それでも過剰な自主規制のように思えてならない。関係者にとっては苦渋の選択だったのかもしれないが、この時期だからこそ観たかった作品だ。釈然としない思いが残った。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。