COLUMN

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Out of Tokyo

023:六本木の新名所「ZONE」
小崎哲哉
Date: October 26, 2001
JOURNAL FOR PEOPLE | REALTOKYO
高木正勝による映像インスタレーション
『JOURNAL FOR PEOPLE』
写真提供:Tokyo Designer’s Block 2001 事務局

僕は麻布鳥居坂に住んでいて、すぐ近所で行われているいわゆる「六六(六本木六丁目)開発」(正式プロジェクト名は「六本木ヒルズ」)を目の当たりにしている。ブルドーザーやクレーンや、そのほか僕など名も知らないハイテク建設機械によって、街並みが日毎に変わってゆくのはなかなか壮観だ。規模はだいぶ違うとはいえ、数年前に訪れたベルリンはポツダム広場の工事現場にも通ずる、破壊と創造のダイナミズムがそこにはある。

 

「六六開発」は最終的には2003年に完成・終了するという。その先駆けとしてこの10月にオープンしたのが、六本木通りに面した「New Tokyo Life Style Roppongi Think Zone」だ。開館して間もない10月11日に、SILICOMの映像で知られる映像・音響アーティスト高木正勝による映像インスタレーションがあったから、さっそく出かけてみた。

 

青山ブックセンター | REALTOKYO
青山ブックセンター

もとは日産のショールームだったから、名前も長いがスペースも広い。天井高は7メートル、ファサードの幅は20メートル以上、奥行きもそれぐらいあるだろうか。手前は床面全体に映像を映し出せる「巨大スクリーン」となっていて、奥の方にカフェ、さらに間仕切りの向こうに、建築書、とりわけ洋書を中心に並べる青山ブックセンターの出店がある。

 

デザイナー吉岡徳仁は、光の流出入に気を配った見事な空間演出を施していた。ファサードと間仕切りに特殊ガラスを用いて外光を取り入れる一方、内部の模様を建物の外にも半透過させるのだ。高木正勝は具象と抽象のあわいのような映像をリズミカルに投射し、吉岡がつくり出した光のモワレとでも呼ぶべき空間に快く放出させていた。外の喧噪と隔絶され、幻想的な光の粒子に包まれた観客は、魚となって巨大な水槽の中に放り込まれたような奇妙な錯覚を覚えたのではないだろうか。

 

cafe | REALTOKYO
cafe

都心のただ中に突然現れた贅沢な空間だが、とはいえ懸念や不安もある。ABCの書棚に品揃えが薄いという印象があるのはご愛敬だが、せっかくのカフェスペースに入るのに(皮肉なことに美しいファサードと巨大な映像スペースのために)、やや敷居が高い感が否めない。カフェ自体もちょっと貧弱な気がしたけれど、担当するランブルディッシュのスタッフに聞いてみたところ、これは11月の下旬までにはメニューを含め改善されるそうだ。空間デザインと厨房の機能性を両立させるのに、もう少し時間が必要だということらしい。

 

ZONE floor plan | REALTOKYO
ZONE floor plan

いちばんの心配はこの美的な空間が、採算重視等の財政的な理由によって、閉鎖もしくは縮小されてしまう可能性だが、そこは運営に当たっている森ビルの見識に待つことにしよう。創案者はもちろん意識しているだろうが、Zoneはたんなるハードウェア的「建築」ではない。吉岡やランブルディッシュら、さらには高木や彼に続く映像アーティストら、人を得て成立するソフトウェア的「空間」である。流動する都市を象徴する場所として、多くの才能が集まって様々な催しが開かれることを願ってやまない。RTも応援しますよ。

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。