COLUMN

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Out of Tokyo

021:デザイナー東泉一郎との対話(1)
小崎哲哉
Date: September 28, 2001
東泉一郎 | REALTOKYO
東泉一郎

グラフィックデザイナーの東泉一郎に久しぶりに会った。「グラフィックデザイナー」ととりあえずは書いてみたけれど、雑誌『InterCommunication』創刊時のアートディレクターであり、ウェブサイト「センソリウム」のオリジナルメンバーであり、日本科学未来館では江渡浩一郎、島田卓也らとともに「インターネット物理モデル」をつくりあげ、11月にICCで開催される予定の「信用ゲーム」展にはアーティストとして参加するなど、肩書が付けにくい人物である。いつも笑顔を絶やさない穏やかな人柄だ。

 

その東泉さんが、『Neut(ニュート)』について話をした。これに参加し、苦い思いが残ってしまったのだという。中途半端な関わり方をしてしまったそうだ。『Neut』とは、もうひとりのグラフィックデザイナー、佐藤直樹(アジール・デザイン)が創刊した随時刊行の雑誌だ。僕は佐藤さんともこの雑誌について話をしているのだが(「TOKYOの仕掛人」参照)、「デザイン」が今どうあるべきかについて、東泉さんの指摘にはうなずかされるところが少なくなかった。以下に採録し、読者の方々の反応を待ちたい。ご感想・ご意見は掲示板にどんどんポストして下さい。

 

『Neut』創刊号 | REALTOKYO
『Neut』創刊号

『Neut』にはテイ・トウワさん、ヒロ杉山さん、それに編集長の佐藤さんが加わった座談会への出席、というかたちで参加していますよね。最初から違和感があったんですか。

 

違和感というよりも、実際どうしようかな、という迷いとか悩みが強かった。大上段に振りかざした形で『デザインの現状打破』みたいなことを主旨として言われちゃっているよなあって。でも、その要望にどういうふうに答えたらいいのか。デザイナーはリアルプロジェクトでなにか新しいもの作ってみせたり、新しいやりかたを見せたりしていくことでしか、新しいことへの糸口へは繋げていけないのだと思う。そういう意味では雑誌やったり、語ったりしてる場合じゃなかったりして。それは人によってやりかたが違うはず。デザイナーがデザインについて語ったり、デザインをメインモチーフに据えたりするということは、デザインを生業としている人間が日頃の視野のままデザインの内側から語ることになってしまうのでは。デザイン自体をデザインの目的にしようとは思わないし、メディアの形をとろうとすること自体も含めて、自己矛盾をはらんでいるよなあと。

 

でも、結果的には参加したわけですよね。

 

何カ月間か考えて、まずはやってみようと決めたんです。佐藤さんの人柄は大好きだし、あんまり硬く考えずに、気楽に遊ぼうよという気持ちもあることはあって。あれこれ言うより、なんでもやってみることは大事だし。でも、結果的に僕が今回やったことは失敗でした。新たなヴィジョンを問いかけるものにはなっていないな。

 

というと?

 

白状しちゃうと、そこの勝負から逃げちゃったから。少なくとも自分は、ちゃんとデザインについて語れなかった。

 

ほかの参加者についてはどうですか。座談会以外の参加デザイナーについても。

 

全体として、新しい可能性が見えてくるものがそんなにあるようには思えないなあ。俺の目が節穴だっていう可能性もあるけど。結果はまだ出ないですけどね。でもやっぱり『デザイナー祭り』をやってしまったような…。本当に問題意識を持っていてオリジナルをつくろうと思う人間がいれば、自分で勝手にはじめているはずでしょう。そして、そこには、世の中に欠けているものを埋める「なにか」とか、ヴィジョンとか…そういう、何か発見が先立っていて、それをリアライズせずにいられなくなる、それがデザインだと思うから。ウーン、本当はね、必ずそんなこと考えながらじゃないとモノを作っちゃいけないのか? といったらそんなことナイけど。ただ、今回は「デザインの正義」を振りかざしてしまったのでねえ…。

 

【 次回へ続く >> 022:デザイナー東泉一郎との対話(2)

寄稿家プロフィール

おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。