

北米BMW社が、ウェブ上で短編映画を鑑賞するサイト『bmwfilms.com』をオープンしている。ウォン・カーウァイ、ガイ・リッチーら著名監督5人に、英国人俳優クライブ・オーウェンを主演とするシリーズ「The Hire」の演出・制作を依頼。4月26日にお目見えしたジョン・フランケンハイマーの『Ambush』を皮切りに、7月19日までに5作すべてを公開した。ストリーミングのクォリティでは満足できない視聴者のために、専用のビューワーを開発するなど、かなりリキが入っている。BMW社に企画意図を問い合わせてみたところ「アート、エンタ-テインメント、テクノロジ-とコマ-スを、かつてない方法で融合させようとする試み」という返事が戻ってきた。
一方、スペインのカルチャーウェブサイト『No Todo』も、インターネットの中だけで完結する映画祭を主催している。AVI、MPEG、Flash、QuickTime、RealVideoのいずれかのフォーマットで、ファイルサイズ最大3.5MBという世界初の「国際圧縮映画祭」。6月末の締切までに449本の応募があり、主催者によればこれまでに延べ60万件のダウンロードがあったという。プロ・アマの別を問わない、完全に一般公募を貫いた映画祭だ。

「国際圧縮映画祭」の449本はとても全部観るわけに行かないが、BMWのほうはすべてに目を通してみた。5作とも6分強、車(もちろんBMW)のシーンが多いこと以外に、カット割りが細かく、クローズアップが多用されているという共通点がある。いうまでもなくそれは、小さなモニター画面で鑑賞されることを前提としているからだろう。「ビデオなんてとんでもない、映画はやっぱり大スクリーンで観なくちゃ」という真性シネフィルが眉をひそめそうな話だが、見方を変えるとこの試みは面白い。
なにしろ、「圧縮映画」は今までの映画とはまったく異なっている。時間は短い、画面は小さい、画質も違う。それらの「しばり」をネガティブな制約ではなく、ポジティブな制作条件として受け止めれば、むしろ新しいメディアジャンルが芽ばえたと考えられるのではないだろうか。本格的なブロードバンドへの過渡期においては、映像の文法はこれまでのものとは変わってこざるを得ないが、そこには実験的な楽しみがあふれているのだ。
他ジャンル、たとえばゲームは、メディアがFDやカートリッジからCD-ROM、さらにDVDに変わって容量が巨大化するに伴い、画質や音質を上げていった。もちろんその方向性に何の問題もないけれど、クソゲーはクソゲー、つまり核心となるアイディアこそが命である。
「圧縮映画」もアイディアが重要視されてゆくのではないか。「一発芸」みたいなもので終わられちゃあ困るけど、普通の映画とはひと味もふた味も違う面白い作品に期待したい。と同時に、こういった表現活動を支援するBMWのような企業の、大胆な発想・姿勢にも敬意を表したいと思う。冒険心に満ちた広告活動、メセナ活動は大歓迎だ。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。