
植物の巻ひげ、オウムガイの殻、マウンテンシープの角などなど、生き物のパーツには美しい螺旋を描くものが少なくない。遺伝子は螺旋などの形態を生み出すのに直接関与していない、つまり、遺伝子は可能性を含み込んでいるだけで最終的に形態を決定するのは重力だと示唆する生物学者もいるけれど、いずれにしろ、螺旋形は美しい。どうしてあんなかたちが生まれるのか、『うずまき』の伊藤潤二ならずとも不思議に思う人は多いだろう。

photo: Herman Sorgeloos
その螺旋形の不思議を積極的に、しかも方法論的に作品に取り込んでいる表現に立て続けに出会った。まずは、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル率いるダンスカンパニー「ローザス」の『ドラミング』(6/1~3@彩の国さいたま芸術劇場)。初日のポストパフォーマンス・トークで振付家自らが説明してくれたが、スティーヴ・ライヒの無限に変化するかのような音楽に合わせ、ダンサーたちは螺旋形に広がるステップを踏む。1拍のあいだに最初は1歩、次は2歩、そして3歩……。5歩くらいまでは速足で歩いているような感じだが、それ以上になると走る、あるいは飛ぶようなスピードとなる。ダンスが展開される空間も舞台いっぱいに広がり、気持ちがよいくらいダイナミックだ。

もうひとつは、美術家・中ザワヒデキの個展(5/10~6/2@レントゲンクンストラウム)で観た『質量』。アナログの針が、あるいはデジタルの数字が重さを表示する秤の上に、理科の実験が懐かしく想い起こされる小さな分銅が何十個か並べられている。それだけの作品だが、分銅の並べ方に工夫がある。真ん中に1gがひとつ、その周りに500mgが「(1+1)×2」で4つ、そして250mgが「(1+2)×2」で6つ……というように、分銅ひとつあたりの重さが減ってゆくのに反比例して、数が螺旋状に増えてゆくのだ。ひとつひとつを足し算していった結果が、秤の表示とぴたりと合う。そんな当たり前のことに奇妙な感動を覚えてしまう。
どちらの表現も思いつきはシンプルこの上ない。でも、いわば骨格にすぎないその思いつきに、鍛えられたダンサーの動きや素材感あふれる分銅という物質が、豊かに肉付けされているところに妙味がある。「方法芸術」を標榜する中ザワに訊いてみたら、ローザスのことは知らなかったが、「やっぱり『方法』は自然に普遍化するんですね」と笑っていた。一歩間違うと頭でっかちになりかねないけれど、「方法」を意識しながら作品をつくるアーティストがもっともっと増えるといいなと思う。
寄稿家プロフィール
おざき・てつや/『REALTOKYO』『Realkyoto』発行人兼編集長。1955年東京生まれ。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。趣味は料理。